たとえば身長とか、体つきとか。
祖国を離れて二年も経つのに、秀彬の姿は少しも変わっていないように見える。どうにも華奢で、子供っぽくて。泰成には珍しく、心配で仕方ない。
秀彬だけは泰成の中で、他の誰とも違う存在だった。
来栖家というのは代々、笠原家に仕えている家系だ。泰成の祖父には秀彬の祖父が、泰成の父には秀彬の父が仕えている。
それは泰成が笠原家を継ぐのと同じように架せられた、来栖家の宿命。
秀彬は生まれながらにして、泰成が家督を継ぐ際の「家令」となることが決まっている。
秀彬が生まれたとき、泰成を引き合わせた父は目も開かない赤ん坊を指差して「これはお前のものだ」と言っていた。その言葉に、そばへ控えていた秀彬の父親も、何も言わず頷いていた。
泰成は生まれたばかりの秀彬に会った、その時のことを、忘れてはいない。
いくら生来、我が侭勝手な泰成でも。生まれた時に引き会わされ「お前に仕える者だ」などと紹介されたのだから、これでも秀彬のことは、二人いる弟などより、よほど気に掛けてやっているつもりなのだ。
まだ言葉もまともに話せない、生後何週間という秀彬と会った時。当時四歳だった泰成が手を差し出したのは、未知の生き物に対する純粋な興味でしかなかった。
その手を、正確に言えばひとさし指を、小さな秀彬は驚くような力で握り締めた。
……びっくりして。
でも、手を引こうとは思わなかった。
―――これは、お前のものだ。この子は命の限りお前に仕えるだろう。
傍らの父が囁くのに、泰成は無意識で頷いていた。
お前に仕える者だと与えられた、小さな命。懸命に泰成の指を握っている手。
生意気な弟たちなどより、よほど可愛くて。泰成は泰成なりに、秀彬のことを大切にしている。
夕食を済ませた今頃から出掛けると言い出した泰成のため、彼はせっせと主人の身支度を整えてくれていた。その懸命な姿には、彼の一途さが感じられる。
確かに秀彬はいつも一生懸命で、健気に見えるくらい真面目だ。そういう部分も気に入って、少年を大事にしてやっている泰成なのだが、どうにも黙って仕えるばかりの秀彬が理解出来ないのも事実。
なにしろ泰成はこの国に来てから……いや、初めて出会ったときから、今まで。一度も秀彬に我が侭を言われたことがない。
少年は自分の要求など、ひとつも口しようとしないのだ。
しかし泰成の要求には、どんなことでも必死な様子で応えようとする。