【この空の下にA】 P:02


 たとえば身長とか、体つきとか。
 祖国を離れて二年も経つのに、秀彬の姿は少しも変わっていないように見える。どうにも華奢で、子供っぽくて。泰成には珍しく、心配で仕方ない。
 秀彬だけは泰成の中で、他の誰とも違う存在だった。

 来栖家というのは代々、笠原家に仕えている家系だ。泰成の祖父には秀彬の祖父が、泰成の父には秀彬の父が仕えている。
 それは泰成が笠原家を継ぐのと同じように架せられた、来栖家の宿命。
 秀彬は生まれながらにして、泰成が家督を継ぐ際の「家令」となることが決まっている。

 秀彬が生まれたとき、泰成を引き合わせた父は目も開かない赤ん坊を指差して「これはお前のものだ」と言っていた。その言葉に、そばへ控えていた秀彬の父親も、何も言わず頷いていた。
 泰成は生まれたばかりの秀彬に会った、その時のことを、忘れてはいない。

 いくら生来、我が侭勝手な泰成でも。生まれた時に引き会わされ「お前に仕える者だ」などと紹介されたのだから、これでも秀彬のことは、二人いる弟などより、よほど気に掛けてやっているつもりなのだ。
 まだ言葉もまともに話せない、生後何週間という秀彬と会った時。当時四歳だった泰成が手を差し出したのは、未知の生き物に対する純粋な興味でしかなかった。
 その手を、正確に言えばひとさし指を、小さな秀彬は驚くような力で握り締めた。
 ……びっくりして。
 でも、手を引こうとは思わなかった。

 ―――これは、お前のものだ。この子は命の限りお前に仕えるだろう。

 傍らの父が囁くのに、泰成は無意識で頷いていた。
 お前に仕える者だと与えられた、小さな命。懸命に泰成の指を握っている手。
 生意気な弟たちなどより、よほど可愛くて。泰成は泰成なりに、秀彬のことを大切にしている。



 夕食を済ませた今頃から出掛けると言い出した泰成のため、彼はせっせと主人の身支度を整えてくれていた。その懸命な姿には、彼の一途さが感じられる。
 確かに秀彬はいつも一生懸命で、健気に見えるくらい真面目だ。そういう部分も気に入って、少年を大事にしてやっている泰成なのだが、どうにも黙って仕えるばかりの秀彬が理解出来ないのも事実。

 なにしろ泰成はこの国に来てから……いや、初めて出会ったときから、今まで。一度も秀彬に我が侭を言われたことがない。
 少年は自分の要求など、ひとつも口しようとしないのだ。
 しかし泰成の要求には、どんなことでも必死な様子で応えようとする。