好き勝手にやっている泰成だからこそ思うことなのかもしれないが、秀彬は平気なのだろうか。生まれたときから決められた役目というものに、満足しているとでも言うのだろうか。
いつか秀彬が「自分の道を歩きたい」と言い出したとき、泰成は出来る限りのフォローをしてやるつもりでいる。家などには縛られたくないと、彼が言い出す時に。
なのに、どうだろう?
―――泰成の洋行に同行しろ。
大人たちからそう命じられた秀彬は、迷いもなく了承した。
まったく、大人たちの考えることは理解できない。
秀彬に泰成の無茶を止められるはずはなく、しかもこの国へ来る船上で必死に言葉を覚えた秀彬が、異国の地で泰成をフォローすることなど出来るはずもなかった。
秀彬以外に五人もの人間を同行させたところを見ると、大人たちも少年にさほどの期待したわけではないのだろうが。
もちろん、期待されていなかった割に、秀彬は立派にやれている。
だがそれはまだ「家令」と呼べるほどのものではない。
ひょっとして、だからこそ大人たちは、泰成の洋行に秀彬をつけたのだろうか。泰成が秀彬を心配するあまり、派手な行動を控えるとでも思って。
しかしそれは、あまりにも泰成のことを理解できていなさ過ぎる。
泰成が何かをやりたいと思ったら、秀彬でも現当主である祖父でも、止めることなど出来ないのだから。
ネクタイを締め、後ろに回って上着を構えている秀彬のために、泰成は少し膝を曲げてやった。
袖を通しながら「それで?」と聞く。
「はい?」
「何か言いたかったんだろう?」
「あの…えっと」
静かに前へ回り、上着のボタンを留めようとする秀彬の手を制した。これ以上は暑苦しい。
ちらりと見上げる視線。よほど迷っているのだろう。
「秀彬」
「は、はい」
「私は気が短いんだ。知ってるな?」
急かされた少年は何度かまばたきをしてから、きゅうっと手を握り合わせた。
「あの…泰成様が、楽しそうだと、思ったんです」
「私が?」
「はい。この街へ来てから、その…例の犯人が見つからず、気が立っておられたと思うのですが…」
「…なるほどね」
参ったな、と。苦笑いを浮かべる。
秀彬に悟られるほど、自分は浮かれているのだろうか。
じいっと見つめる秀彬の視線がくすぐったくて、泰成は逆に彼の顔を覗きこんでやった。
「そんなことを言ってて、いいのか?」
「え?…そんなことって…」
「お前は最初から、この街へ来るのが乗り気じゃなかっただろう?」
「あ…」
「顔に書いていたよ」