殺人鬼探しにこの街へ行くから、同行しろと命じられたとき。少年はとても嫌そうな顔をしたが、ただ黙って頷いた。
大体、気に掛けているとか大事にしているとか言うくせに、泰成のやっていることは矛盾している。本当に秀彬のことを思うなら、こんな悪趣味なだけの危険な旅に、同行させるべきじゃない。
でも自分のそばが一番安全だ、なんて。本気で思っているところが、泰成の甘さなのだろう。
秀彬は本当に頑張り屋で、意地っ張りなくらい肩肘を張っているけど。その実、極度の怖がりでもある。
お化けとか、幽霊とか、そういうものを本気で信じているし、恐れている。
そんな少年に、殺人鬼探しへ同行しろと言ったのだ。
赤くなって俯く秀彬が、気持ちを隠していたつもりなのだと確信して、泰成は笑い出した。
「ははは!お前は本当に怖がりだな」
「も…申し訳ありません…」
「殺人鬼が出るのは夜だけだ。その時間、外を出歩かなければ、怖いことなど何もないだろ」
「…はい」
しかし正体不明の殺人鬼が横行する街など、遭遇しなくても怖いと思うのは当たり前だ。
気持ちが伴わないくせに、それが自分の役目だと思っているのか素直に頷く秀彬の肩を、泰成は気軽な調子でぽん、と叩いてやった。
「残念ながら、殺人鬼の方はまだ出会えていないよ」
「そうなんですか?」
殺人鬼を見つけたから楽しそうにしているとでも思っていたのだろう。ようやく首都へ帰れるのかと期待していた秀彬は、残念そうな様子で溜め息をかみ殺している。
少年の落胆を見つめながら、泰成は頬を緩めた。
「でもまあ、楽しんでいるのは事実だな」
「え…?」
「お前に悟られるくらいだ。よほど私は浮き足立っているのだろう?」
今日の予定はもう決まっていた。
まずは娼館へ、シルヴィアを訪ねて占いをさせる。それから探しものだ。
銃声を聞いたあの月夜から、泰成は毎日飽きもせず、同じことを繰り返していた。
「なあ秀彬。hide-and-seekという言葉を知っているか?」
「はい?…はいど?」
「hide-and-seekだよ。わからないなら調べてみるといい」
言いながらホテルの廊下へ出た泰成は、すぐに踵を返し、黙って秀彬の寝泊りしている副寝室を覗き込んだ。
中では勉強熱心な少年が、何度も開いて分厚くなってしまっている辞書を、素直に開いている。
彼の姿を微笑ましく見つめ、泰成は扉を拳でコンコン、と叩いてやった。