はっとして秀彬が振り返る。
「見つけたかい?」
「いえ…あの」
「H,I,D,E,A,N,D,S,E,E,K,だよ。帰りは朝になるはずだ。先に寝ていなさい」
じゃあな、と軽く手を振って、再び部屋を出て言ってしまう。
泰成の言う気遣いなど、この程度のものなのだ。
ハイドアンドシーク。つまりは「かくれんぼ」のことだ。泰成は最近、この遊びに夢中になっていた。
常に鬼は泰成。探しているのは、月の明るい晩に出会った、美しい人。
まだ名前すら教えてくれないつれない人を、夜毎探して街をさ迷い歩いている。
始めのうちこそ見付け出せない日もあったのだが、ここ二・三日、泰成は必ずその細い腕を捕まえていた。
ようやく彼の行動心理がわかってきたのも理由だし、シルヴィアとの連携の仕方がわかってきたのも理由。
今まで占いなんか……と思っていた泰成だったが、確かに彼女の言葉は役に立つ。
今夜も探索へ出掛ける前に、彼女のいる娼館を訪れていた。
「…また同じことを占うの?」
面倒そうなシルヴィアに、泰成は「勿論だ」と笑っている。
「お前の占いだけでは役に立たないが、私がそれを元に推理することで、彼の行方は必ず知れる」
「彼自身のことを占えとは言わないのね」
泰成はシルヴィアに、彼のことを何も話していなかった。
話せるだけの要素がないのも事実だが、撃たれても平然と立ち上がったことや、彼が同郷の人間だということも話していないのだ。
あの日の夜に自分と出会った男を探せ。いつも泰成が言うのは、それだけ。
「私は未だに、お前の占いとやらを信じてはいないのでね。単に勘がいい、と考えた方が納得できる」
「勘…まあ、そうね。そういう部分も、あるかもしれないわ」
「ああ。私もよく言われる」
自慢げな様子もなくそう言ってのける泰成を、シルヴィアはじとりと睨んだ。
そこまで言うなら、自分の所へなど来なければいいとでも言い出しそうだ。
「勘、というのは、先入観がない方が当たるものだろう?なら余計なことに気を回すな。お前は彼の行き先を教えればいい」
「………」
「ああ。占い、だったな」
「それが人に物を頼む態度なの?」
「誰が頼んでいるんだ。私は相応の報酬を払っている」
抱きもしない女の花代と、それとは別にシルヴィアに対する占い料と。大枚を払っているのだから、文句を言うなと泰成の表情が僅かに険しくなった。