シルヴィアは溜め息を吐いて、カードに触れようともせず呟いた。
「街の北側。73番街。人気のない建物」
「占いはどうした」
「貴方が言うことはわかっていたもの。もういいでしょ?帰って」
事前に占ったのだというシルヴィアに、泰成は気にした様子もなく腰を上げた。
ふと粗末な部屋を見回してみる。
自分は占いなどくだらないと、今でも思っているが。この国では、けっこうな商売になると聞いたことがあった。
シルヴィアくらいの力があれば、娼婦などせずとも稼げそうなものだが。
「おい」
「…まだ何か」
「自分のことは占わないのか?」
たとえば力になってくれそうな客の来訪や、自分の将来がどうなるか。わかっていればもう少し、何事にも積極的になりそうなもの。
いつだって彼女は気だるげで、金づるの泰成にさえ、必要以上の興味を持とうとはしない。
「占い師は自分のことなんて占わないわ」
払ってもらっている金の分だと思っているのか、今もやっぱり彼女は、何事にも興味のなさそうな顔で、面倒そうに答える。
立ち上がったかと思うと、あからさまに泰成に背を向け、次の客を迎える準備など始めているのだ。
「占わない?…何故だ。まさか自分のことに興味がないとでも?」
「自分の占いを信じているからよ」
「信じているなら、なおのことじゃないのか」
シルヴィアは手を止め、鬱陶しげに泰成を振り返った。僅かな苛立ちが見え隠れしている。
「期待していたような結果が出なかったらどうするの」
「なんだ。怖いのか」
「人は誰だって、今日よりマシな明日が待っていると思うから、どんなに辛くても生き続けていくのよ」
「…シルヴィア?」
その尖った言葉は、今までの彼女とどこか違う。とても苦しげで、痛々しい響き。
「誰もが貴方と同じだなんて、思わないことね。不幸を享受して甘えるのも、快楽に溺れて逃げるのも、死んでいるのと同じことだわ」
「…誰の話をしているんだ」
「わからないなら、それでいい。貴方は彼と同じように、一生そのまま、死んだように生きるのよ」
「おい」
「帰って」
ふいっと向けられた背中は、今度こそ拒絶で頑なに凍りついていた。
言われた意味がさっぱりわからず、泰成は肩を竦める。怒りなのか怯えなのか、女の指先が震えていた。
―――八つ当たりだろ?結局は。
恵まれた泰成と、こんな娼館に身を落しているシルヴィアは、相容れなくて当然なのかもしれない。