【この空の下にA】 P:07


 この街は本当に、泰成の予想を裏切る、面白い連中ばかりだと。
 彼女に近づいた泰成は、細い身体をそっと抱き寄せて、白い肩に口づけた。

「何のつもり…っ」
「買い上げてやろうか?この身体」
「タイセー!離してっ」
「今度、改めて値定めに来てやるよ」

 かっとしたシルヴィアが振り返り、華奢な手を上げる。その手を掴んで、泰成は彼女の唇を塞いでやった。
 暴れる身体を抱きすくめ、口の中を蹂躙してやっても、シルヴィアは最後まで抵抗をやめなかった。これくらい勝気な女の方が、面白い。
 思う様冷たい唇を味わって、ベッドへ突き飛ばす。

「今は、忙しいんでね」
「二度と来ないでっ!」
「また来るさ。じゃあな」

 怒りに切れた彼女が、手当たりしだいにその辺のものを投げつけてくる。飛んでくるものを全て避けた泰成はシルヴィアに笑みを見せながら、娼館を後にした。
 
 
 
 
 
 街の北側、73番街、人気のない建物。
 そこから少し離れた場所に、泰成は立っていた。
 時間的なものなのか、能力的なものなのか、シルヴィアの占いにはいつも、少しだけズレが生じる。そのズレを彼の今まで行動から計算して修正すれば、必ず彼の姿を見つけることが出来る。
 泰成は目の前の建物をじいっと見上げ、割れた窓の一つに、人影が動くのを確認した。彼だ。

「ふうん…今夜はわりと当たった方か」

 人影はこちらを見下ろし、泰成を見つけたんだろう、さっとその場から消えてしまった。窓辺を離れて行った人影が誰かなんて、疑うまでもない。
 街の北側で、人気のない建物という占いの結果は当たっていた。通りが何本か違うだけ。
 狭くもない街だ。
 ここまで居場所を特定できるなら、十分と言えそうなものだけど。シルヴィアの占いは、日一日と彼の場所へ近づいていく。
 もう何日かすれば、ズレを修正する必要などないかもしれない。

 泰成は廃墟となっている建物に駆け込んで、階段を上がり始めた。
 人影が見えたのは三階だったが、たぶんそれよりいくつか上の階へ移動したんだろう。彼はどうにも、逃げ場を失うような方向へ、あえて逃げるクセがある。
 自身が死なない身体をしているせいかもしれない。三日前、四階建ての建物の屋上から身を躍らせたときは、さすがの泰成も驚いた。
 路地ならより狭い方へ。
 建物なら逃げ場のない上階へ。
 普通、追っ手が行かないはずだと考える方へばかり、彼は逃げていく。