素直に答える彼は、自分の言葉を証明するかのように、ぼうっとした瞳に泰成を映している。
彼が不変の身体をしていることは、もう疑いようがないけど。その顔は少し青ざめて、美しい造作に暗い影を落していた。
それ以上何も言わず、彼の視線は泰成に興味を失い、人々の信仰から投げ出された教会へと向けられる。泰成もなんとなく彼の視線を追い、教会を振り返った。
外からはほうほうと、不気味な鳥の鳴き声が聞こえている。かつてガラスが入っていたのだろう、今はぱくりと口を開けているだけの窓から、裏の墓地までが一望出来た。
一歩足を進めるのも戸惑うような、朽ち果てた廃墟。
「まさかこんな所で、手を出したりはしないだろうな」
唐突に話しかけられ、泰成は疲れきった様子の美しい人を見つめた。
「まあ、そうだな」
苦笑いを浮かべて頷いた。
興味があれば一通り何でもやってみる泰成だが、さすがにこんな汚い廃墟で一晩過ごしたことはない。
泰成は目に見えないものを怖がるほど、繊細な神経の持ち主ではないが、やはりこんな墓地に並んだ廃墟、誰にとっても居心地がいい場所ではないだろう。
不思議と、恐ろしさは感じない。
だがかつては人々の信仰を捧げられ、明るい光に満ちていたはずの場所。時間の中で置き去りにされ、静かに朽ちていく空間は、どうにも人の気を滅入らせる。
泰成はじっと彼を見つめた。
こういう崩れる寸前の危うさは、彼の退廃的な美貌に似合うと思うけど。
真っ暗な廃墟。
物音ひとつしない、暗闇。
長い間放置されている空間は、あまりにも彼に似合い過ぎていて、やけに不安を掻き立てる。
「行こう」
手を差し伸べる泰成のことを、男は戸惑った顔で見上げていた。
「こんな所に長くいるもんじゃないだろ。場所を変える」
泰成は強い力で彼の腕を掴み、無理矢理立たせて勝手に歩き出す。
傲慢な泰成の行動には慣らされてしまった彼だが、この泰成の行動にはさすがに立ち止まって、掴まれている腕を引き戻そうとした。
「おい、ちょっと待て」
「何だ?」
「お前の頭には、自分一人で帰ると言う考えは浮かばないのか?」
ここが嫌なら、もう今日は何もせず、諦めて帰るとか。そういう結論には至らないのかと、呆れた顔で尋ねる男を見つめ、泰成は「そうだな」と呟きながら、視線を広いだけの廃墟へ向けた。