【この空の下にB】 P:09


 泰成が先ほどの問いを繰り替えすと、惺は諦めの滲んだ顔でただ、何かを考えるように前だけを見ていた。

「…僕は人を探して、ここへ来た」
「人探し?」
「ああ。…預かりものを返す為に。縁のある女性がこの街にいると、聞いたんでな」
「なるほどね」
「それが終われば…すぐに消える」

 どこへ?と聞きたかったが、泰成はどうせ今聞いても無駄だろうと思って諦めた。
 その代わりに惺を引き寄せ、柔らかく唇を塞ぐ。
 どうにもわからない男だ。
 何日も追いかけ、何度も肌を重ねたせいで、彼が快楽に弱いことはわかっている。抗う手がしだいに弱くなるのを感じて、泰成は唇を離し、彼の髪を撫でながら細い身体を抱きしめた。

 呼びたいんだと囁いただけで、あっさり名前を教えたのは、彼がそうとうな寂しがり屋か、もしくは寂しいと思う気持ちが止められないくらい、孤独に苛まれていた証拠だろう。
 なのに突然彼は、消える、なんて暗い言葉を使い、自分の言葉に傷ついた顔をしている。

 せっかく泰成が手を差し伸べてやろうと言うのだから、縋ってしまえばいいのだ。どんな望みでも、泰成なら大抵は叶えてやれるのに。
 人の愚かさは知っていると言いながら、辛そうに眉を顰め、寂しげな素振りを見せながら、消えると呟く。
 本当に惺は、わからないことばかり。
 しかし泰成は笑みを浮かべていた。謎が多いのは結構なことだ。
 ……その方が、面白い。

 見上げてくる瞳が弱っているのに気付いて、泰成は優しく惺を撫で続ける。指先で惺の顎を捉え、ちゅっと軽く口付けた。
 そうしてそのまま、惺の肩を抱いて歩き出す。

「探し人を諦めるのは惺の勝手だが、どうせなら手伝ってやろうか?」
「どういう意味だ」
「そのままだよ。あんたを追いかけ回している男は、殺人鬼を探しに出向いて来るような悪趣味な男だが、それでもあんたに安くない宿を提供してやるだけの金と、人探しに役立つ心当たりがあるんだ。この際、街にいる間だけでも、利用してみるというのはどうだ?」
「泰成…」
「な?」

 屈託なく笑い、勝手に話を進めてしまう泰成が、引く気のないことを知って。惺は溜め息を吐いた。

「本当に物好きだな、お前は」
「ああ。よく言われる」
「返してやれるものは何もないぞ?」
「それは、見つけてから考えるさ。…なあ惺。探し人の情報はあるか?女性だという他には?」