【この空の下にC】 P:11


「…何を聞いていたんだ、お前は」
「まあまあ」
「まあじゃないっ」

 見た目だけじゃない。心や魂まで美しい人。彼の手を離さなければ、道はひらけていくかもしれない。
 繊細な指先を握ったまま、泰成は歩き出す。立ち止まって迷うのはいつでも出来るはずだ。そんなもの、あまりに自分らしくない。
 今この手を離したら、二度と惺に出会えないような気がする。そういう自分の勘の良さを、泰成は信じている。

「貴方自身を救えないのはわかった。しかし人探しなら、私でも役に立つだろ」
「だからそれは、もういいから」
「貴方を警察から連れ出すのに、大枚払ったんだ。人探しくらい、最後まで付き合わせろ」
「僕は頼んでないっ」
「エマだったよなあ…やはり惺自身を連れて行った方がいいんだろうな」
「おいっ泰成!」

 慌てて振りほどこうとする惺を許さず、泰成は自分勝手に歩いていく。
 目的は、街外れの娼館。
 行き先にいるのが娼婦だと知ったら、惺はどんなに嫌な顔をするだろうと。泰成は楽しげに笑って、自分が捕らえている人を見つめる。
 月明かりの下でばかり会っていた惺が、陽光の中でも美しく輝いていることに、今さらながら溜め息を零した。



≪ツヅク≫