人目がないのをいいことに、泰成はそのまま惺に口付ける。
唇を離して腕の中の人を見つめると、彼は辛そうに眉を寄せて、泰成を見上げていた。
「…どうした?」
「お前は何も、わかってない」
「惺…」
「僕に関われば、お前は必ず不幸になる。誰も僕を救うことは出来ないし、僕もそんなことを望まない」
「………」
「早く忘れてしまいなさい…国にはご家族がいるんだろう?もう僕に関わるな」
静かに諭す声。
惺はそっと泰成の身体を押し返し、拘束する腕を抜け出した。ゆっくり歩き出し離れていこうとする惺の手を、泰成は黙って捕まえる。
聞き分けのない子供を振り返って、惺は少しきつめに「泰成」とその名を呼び、諌めたのだが。
背の高い青年は、首を振った。
「…貴方はどうして孤独を望むんだ?全ての世界に背を向け、何者にも捕われる気がないと目を逸らしながら、私の身を案じる貴方は、何を考えているんだ」
「お前の知ったことではない」
「時間は戻せない。私はもう貴方を知らぬ頃の私に、戻れないんだ」
「………」
「何もわかっていないと言うなら、教えてくれ。どうしたらいい?貴方を救う為に、私は何をしたらいいんだ」
惺の瞳が一瞬、ぐらりと傾いだように見えた。
何かを言いたげに開いた唇は震えだし、きゅうっと閉じてしまう。彼の葛藤を、泰成は知ることが出来ない。
「…駄目だ」
「惺」
「お前では、駄目だ。お前に僕を救うことは出来ない」
そんな風に人から突き放されたのは初めてで、泰成は目を見開いた。
力も金もある。どんなことも、思い通りにやってきた。なのに唯一自分から何かしてやりたいと望んだ相手が、全てを拒絶する。
もっと腹立たしいものかと思っていた。
しかしきゅうっと詰まる胸に、泰成は戸惑いを隠せない。
この息苦しさはなんだろう。差し出した手を拒まれたというだけで、こんなにも辛く、悲しい。
重い息を吐いて、泰成は自分の髪をかき上げた。
感じたことのない痛み。
泰成自身の口にした言葉だ。
もう惺と知り合う前の自分には、戻れそうにない。
「わかった」
「…ああ」
「けどな、惺?とりあえず今は、人探しが先だろ」
にこりと笑う泰成を見て、惺は呆れた表情になる。