【この空の下にD】 P:04


 ようやく来たかと、泰成は顔を上げる。惺も同じように、階段から降りてくる女性を見つめた。

「…何の用なの…」

 不機嫌さも頂点のシルヴィアが、険しい顔で階段を下りてくる。その服装を見て、泰成は少し目を見開いた。

「珍しい格好だな、シルヴィア」
「店じまいの時間に来たのは、そっちじゃない」
「似合うじゃないか」

 いつもは下着のような服に、薄っぺらいガウンを羽織っているだけのシルヴィアだが、今は質素なシャツに足首まで隠れるスカートを身につけている。夜だけ施される派手なメイクも落し、きれいな目鼻立ちがいつもとは違う雰囲気を見せていた。
 シルヴィアは肩に羽織ったショールを、占いに使うカードを掴んだ手で、きゅうっと胸元に握り締める。

「…仕事を離れた娼婦を、見物にでも来たって言うの?相変わらず悪趣味な人ね」
「悪趣味は自覚しているが、そんな暇人でもないな。座ったらどうだ」

 黙って二人のやり取りを見ている惺を目に止め、シルヴィアは仕方なくそばまで歩み寄り椅子を引いて、腰を落ち着ける。

「それで?」
「わかってるんだろ。カードを手にしているじゃないか」
「貴方が私に用なんて、占いくらいじゃないの。しかも信じていないのに」
「最近はそうでもないさ」
「どうかしらね」

 言いながらシルヴィアは、カードを包んでいた布をテーブルに広げて、そこへゆっくりとカードの山を置いた。

「また同じ男のことを占うの?」
「それはもういい。ここにいるからな」

 泰成が目の前の惺に手を伸ばし、愛しげに頬を撫でる。咄嗟に避けられなかった惺は、触れられてからその手を叩き落したが、泰成は気にした様子もない。
 驚いたのはシルヴィアだ。自分が探すよう命じられていた男を、初めて見たのだから。

「…この人が…」
「どういうことだ?泰成。この女性は?」
「彼女は娼婦兼、占い師なんだ」

 いまいち状況が掴めないでいる惺に聞かれ、泰成は種明かしをするみたいに上機嫌で微笑んだ。
 占い師、という言葉に惺は眉を寄せる。まさかそんな信憑性のない情報を得るために、こんな所まで連れてきたのかと言いたそうだ。しかし泰成は、緩やかに首を振ってみせた。

「おかしいと思わなかったか?毎日毎日、広くはない街とはいえ、私は貴方を毎晩のように見つけていただろ」
「…よほど暇なんじゃなかったのか」