【この空の下にD】 P:08


「酷い、ね。まあそうだな。生まれた時から未来を決められているなんて、酷い話かもしれないが。それを秀彬がどう受け止めているかは、本人に聞いてくれ」
「………」
「我々は誰しも、何らかの宿命の上にいるんじゃないのか?それを打ち破るも、甘受するも、本人次第だ。私は笠原家直系の第一子に生まれた時から、笠原家の当主となることが決められている。秀彬も同じだ。来栖家直系の第一子に生まれた時から、笠原の家令になるが宿命」
「…家令に?」
「ああ。そういう家なんだよ…古臭いだろう?しかし私は、そんなものに振り回されるつもりはない」

 とん、と大きく一歩前へ出て、泰成は両腕を伸ばし身体を少し反らせると、その勢いのまま惺を振り返った。
 いつだったか、彼の名前を聞いたときと同じように、後ろ向きに歩く。

「私はやりたいことをやるし、誰に止めさせる気もない。自分にそれだけの力があるのは自覚している」
「図太い神経だ」
「何が悪い?今まで思い通りにならなかったことなどないんだよ。当然だ。私には知力も腕力もある」
「………」
「秀彬の強みは、私に気に入られていることだ。貴方はそれを不幸だと言うがね、あの子が本当にやりたいことを見つけた時、私ほど頼りになる味方はいないぞ?」

 いつも通り自信満々に言って、またくるりと惺に背中を向けた泰成は、苦笑いを浮かべた。

「あんたもせいぜい、私を利用するがいいさ。人探しと夜伽ぐらいなら朝飯前だ」
「後の方はいらないんだよっ!」

 きいっと声を上げる惺を待って、隣に並ぶ。思い通りに彼の暗い表情を払拭できたことが、想像していたよりも嬉しかった。

「そっちの方が得意なんだが」
「心の底から遠慮する」
「一度思うまま命令してみるか?あんたになら許してやるぞ。して欲しいことを全部言ってみな。あんたの身体の中にある、悦楽という悦楽を全部引きずり出してやる」
「お前な…」
「泣きながら腰を振って乱れるあんたに、淫らな要求をされたいんだよ」
「泰成っ!!」

 耳元で囁いた泰成の言葉に、思わず惺は手を振り上げる。それを素早く避けた泰成は、明るく笑いながら惺の真っ赤な顔を見つめた。
 月夜の下であんなにも美しかった彼が、今はこんなにも可愛い。

「ははは!今さらだろ、これくらい。何を怒ってるんだ?」
「昼間っから往来でする話かっ!」
「わかった。じゃあ今後は、暗い部屋で話すことにする」