【この空の下にE】 P:02


 切なくて、苦しげで。痛々しい表情。
 見ている泰成まで辛くなるようなその顔は、可哀相だと思う反面、色気があってそそられるのも事実。
 だからどうにも惺が無防備になっているとき、この痣に触れるのをやめられない。

「触られたくないなら、最初に声を掛けたとき起きれば良かっただろ」
「どこまで我が侭なんだ、お前っ」
「惺が許してくれる、ぎりぎりまで」
「許してないっ!」
「わかったわかった。目覚めの茶を一緒に飲んでくれれば、あとは寝直すなり何なり好きにすればいいさ」
「そこまで付き合わされて、寝られるわけないだろっ!」

 起き上がっている惺の身体を抱き寄せ、甘えるように鼻先を擦り付けながら、泰成は枕もとの呼び鈴を鳴らした。
 こんこん、と外からドアを叩く音。

「泰成様」
「入りなさい」

 声を掛けてくる来栖秀彬(クルスヒデアキ)に、全裸で泰成にしがみつかれている惺は焦って身を捩るが、泰成が自分を離す気がないとわかると、すぐに掛け布を胸元まで引き寄せた。
 ガチャ、とドアノブを回す小さな音。

「失礼いたします」

 深々と頭を下げて入ってきた秀彬は、顔を上げて同じベッドにいる二人を目にした途端、真っ赤になってしまう。

「あ、あの、お、おはようございますっ」

 がばっと頭を下げ、そのまま顔を上げられずに俯いている秀彬は、もう耳まで真っ赤だ。この十日、毎朝のことなのに、少しも慣れていない様子。
 泰成はそんな秀彬を見て笑い出した。

「ははは!まだ慣れないか?」
「ごめっ…い、いえ。申し訳ありません」
「私と惺のお茶を頼むよ」
「はいっ!ただいまっ!」

 くるっと踵を返し、泰成と惺を見ないようにして部屋を駆け出していく。
 微笑ましいこの朝の光景を、泰成はいたく気にって入るのだが、腕の中の人は同じように思ってくれないらしい。強い力で身体を離され、泰成は仕方なく腕を緩めた。

「悪趣味にもほどがある!」
「だが可愛いだろう?あれでも、もう十五なんだぞ。信じられんね」
「誰も彼もお前と一緒にするなっ」

 枕を掴んで泰成に押し付けた惺は、そのままベッドを降りて浴室へ入っていく。相変わらず夜の名残りを見せないその細い身体を見つめ、押し付けられた枕を抱えたまま、泰成は身を折って笑っていた。
 
 
 
 
 
 この十日と言うもの、毎日が本当に穏やかで、泰成はかつてないくらいの満ち足りた気分を味わっている。