【この空の下にE】 P:08


「もういい、この話は終わりだ。お前は向こうへ行っていなさい」
「いけませんっ泰成様!」
「うるさい!私に意見するな!」
「止められる殺人を解き放っているなら、それはあなたが殺しているのも同じことです!」
「いい加減にしろっ!」

 ぱん!と乾いた音が鳴った。
 静まり返った部屋の中で、少年は頬を抑えて泣いている。しかし意志の強い瞳は、泰成を見つめ続けるのだ。
 人の命に関わることを見過ごしてはいけないのだと、彼は懸命に訴える。

 泰成は自分の手が、じんじん疼くのを感じていた。頭に血が上って上手く思考が回らない。まさかこんな子供に、偉そうな説教をされるなんて。
 怒りがこみ上げてくる。
 気に掛けてやっている秀彬が自分に逆らい、反発したことが許せなかった。

「お前は誰に偉そうなことを言ったか、わかっているのか」
「泰成様…」
「立場を弁えろ。私に向かって意見するなど、許されることじゃないぞ」
「…お叱りは、覚悟しています」
「なんだと?」
「どんなお咎めでも受けます。でも、泰成様。お願いですから考え直してください」
「まだ言うか!」

 華奢な腕を掴み、泰成は引きずるようにして、秀彬を部屋の外へと連れ出した。
 さすがに慌てた惺が止めようとするが、それを振り払う。もう泰成自身にも、誰にも止めようがない。

 崩れそうになりながら泰成に連れ出された秀彬は、その身体を廊下の壁に叩きつけられ、うずくまって咳き込んでいる。
 顔を上げた少年の、涙で濡れた瞳を、泰成は冷たく睨みつけていた。

「たい、せい…さま…」
「出て行け」
「あ…」
「もうお前など必要ない。二度と私に顔を見せるな」

 悲痛に歪んだ少年の顔を視界に入れたくなくて、泰成はドアを閉めてしまう。秀彬の元へ駆け寄ろうとした惺を抱きとめ、彼をそのまま寝室へ連れ込んだ。
 強い力でベッドに押し倒し、覆いかぶさってくる泰成を、惺が非難がましい目で見上げていた。

「泰成」
「煩い…口を出すな」
「後悔するぞ」
「口を出すなと言っている!」

 惺のシャツを引き裂いて、泰成は乱暴に唇を押し付ける。怒りに我を忘れた泰成の強引な身体を、惺は黙って受け入れた。
 愛撫もへったくれもない。ただ感情任せに攻め立てるだけの行為。
 しかしそうして惺の身体に溺れていくうち、泰成は少しずつ自分の気が治まってくるのに、気付いていた。