どうしてその時、詳しく事情を聞かなかったんだ!と、理不尽に怒鳴った泰成は、屋敷に置いて来た者の口調から、彼らの心情を察した。
自分のこういう普段からの態度に、秀彬がとうとう逃げ出したのだと、彼らはそう思ったのだ。
だからあえて詳しく事情を聞いたりしなかった。
自業自得、という馴染みのない言葉が泰成の中に踊る。それを鬱陶しげに振り払いながら、泰成は秀彬を探し回っていた。
探し回りながら、いかに自分が秀彬を振り回していたか。本当の秀彬がどんな人間だったか、泰成は初めてそれを知る。
秀彬は泰成だけではなく、出会う人々のほとんどに好かれていた。
夜更けに訪れる不躾な東洋人だというのに、秀彬を探していると伝えるだけで、彼らは心から同情し、心配してくれたのだ。何かわかったら伝えるからと、必ず同じ返事が返ってきた。
秀彬に花を売っていた老人、秀彬が茶葉を調達していた店の主人。ホテルの従業員や、支配人まで。彼らは皆、秀彬を優しく勉強熱心な子だと褒めてくれる。
花売りの老人は、自分が秀彬の主人だということを知ると微笑んで、どんなに秀彬が泰成を敬愛していたか話してくれた。それは茶葉を売る店の主人も同じ。
彼らの口から聞く秀彬の主人は、泰成と似ても似つかない立派な人物だった。
そんなに褒めてもらえるほどのことをしていただろうか。自分は一体、どれほどのことを秀彬に出来ていたんだろう。
泰成は足が痛くなるほど歩きながら、ずっとそれを考える。
ただ笠原家の長男に生まれただけの泰成と、同じように来栖家の長男に生まれただけの秀彬。くじ引きで出会ったような自分たちなのに。
唯一、警察だけは泰成に冷たかった。
当然だ。金の力で手柄を取り上げ、横柄な態度で自分たちを罵倒した男。今さら青ざめて手を貸してくれなんて、どの面下げて言うんだと、嘲笑う警察官たちを、泰成が責めることは出来ない。
これが普通の反応なのだ。
感じたことのない痛みを覚えながら、泰成は警察署を後にした。とにかく秀彬が見つかれば保護してくれるよう、頼むことしか出来ずに。
こんな自分の何を見て、秀彬は懸命に努力し、仕えられて幸せだったなどと笑顔で言えたのだろう。
主人として秀彬から慕われるようなことを、何一つしてやった記憶がない。