思えば祖国を出たとき、秀彬はあまりに子供で、出来ないことが多かった。
行く先の言葉もわからず、今は比類ない腕を見せる茶の淹れ方もたどたどしかったはずだ。
それがいつの間にか、何でもこなすようになって。他の者が付いて来なくても、秀彬一人がいれば事足りると、泰成に思わせるまでになっていた。
全てはあの子が、たった一人で頑張った結果。
泰成の見ていないところで、素直に人の教えを請いながら。
この国の茶を入れる方法は店の主人やホテルの従業員に、花の生け方は花売りの老人に、秀彬は知っているはずのことでも教えて欲しいと頼んだと言う。
ホテルに戻って、泰成は自分が滞在している部屋のドアを開けた。
中にいたのは、惺一人だけ。
何かを読んでいた彼は、顔を上げて「どうだった」と聞く。
「…あまり、思うような結果は得られなかった」
「そうか」
「皆、心配はしてくれるんだがね。行方を知る者はいないようだ」
一体、どこへ行ってしまったのか。
このホテルを出てから、秀彬の姿を覚えている者はいない。自分たちに張り付いていたはずの警官すら、ホテルを出た後は秀彬の姿を見ていないと言うのだ。
疲れきっていた泰成は、惺が腰掛けるソファーの隣にどさっと座り、頭を抱え込んでしまった。
本当ならここへ黙ってお茶を運んでくれるはずの存在。泰成を労い、心配して、何を言わなくても必要なものをそろえてくれる者。
秀彬の不在にこれほど自分が動揺するなんて、泰成自身も考えてはいなかった。
死者が出たと言う情報も流れていないのが、唯一の救いだ。
どうか無事でいて欲しい。
憔悴しきった様子の泰成を見て、惺は溜め息を吐きながら手にしていた書面をテーブル置いた。
「…思い知ったか?」
「惺?」
何を言われたのかわからず、泰成は顔を上げる。冷たい表情の惺が、厳しい視線で泰成を見据えていた。
「お前の信じている力が、どれほどのものか。思い知ったか?」
「………」
「今のお前には、自分の従者一人探し出すことも出来ない」
「説教は後にしてくれ。今は聞く気分じゃない」
顔を背ける泰成の前に、惺は自分の隣に置いていた書物をどさりと放り出した。
何事かと手に取り、開いてみて。泰成は目を見開く。