分厚いそれにはこの街で起きている事件の記事が、丁寧に切り取られ時系列順に貼り付けられていた。
「これは…」
「秀彬の部屋にあったものだ」
整然と並んだ切抜き。自身は何の興味もないくせに、泰成が追いかけているというそれだけで彼は、この資料を作っていたことになる。
そうしてもう一枚、今度は大きな紙を広げて、惺は泰成に指し示した。
「お前が昨日、気づいたことというのは、これだろう?」
「…これ、を…どこで?」
「それも秀彬の部屋にあったんだ。あの子は確かに賢い子だな。お前の言動を思い出して、同じ真相に行き着いた」
泰成が手にしているのは、この街の地図だ。そこにはきれいに犯行現場が書き込まれている。
それぞれの場所は、事件の起きた順番を追って、らせん状に線で結ばれていた。
確かにこれは昨日、泰成の行き着いた答え。
被害者に共通点などなく、犯人にとって大事なのは犯行場所なのだということを示している。
つまり殺害された者が誰かということに意味があったのは、おそらく最初に殺された少年だけだったということ。
他は最初の少年が殺された動機を隠すためか、もしくは捜査をかく乱するために行われたのだろう。
殺人鬼はまず犯行現場に赴き、偶然居合わせた不運な被害者を、見境なく殺している。そんな些細なことのために人を殺めるなんて、と誰しもが思う動機だが、犯人はそんなこと、少しも意に介していない。
もしかしらたら途中で、殺害そのものが目的となり、臆病な犯人を殺人鬼にしてしまった可能性もあるが、それは捕縛された後で明確になればいいことだ。
泰成は震える手で地図を置いた。
螺旋の中心。最初の少年が殺された場所にだけ、赤い丸がつけられている。
秀彬は一人、犯人を探しに行ってしまったのだろうか?もしそうなら……
「殺人鬼の手に落ちている可能性がある」
行き当たった不安を惺に指摘され、思わず顔を覆う。自分の思慮に欠けた言動で、大切な者を奪われるかもしれない。
言葉の出てこない泰成の隣から、惺が立ち上がった。その気配に顔を上げた泰成の前で、彼は隣の椅子に掛けておいたコートを手に取り着込んでいる。
「惺…どこへ、行く気だ?」
「なあ泰成。あの子は一人でここを出たとき、どんなに恐ろしかったろうな?」
「え?」
言いながら身支度をすっかり整え、憮然とした表情のまま、惺は泰成の前に立っていた。