【この空の下にG】 P:02


 なぜなら彼らは、立ち上がるのだ。
 絶望の底から立ち上がって、ある者は奪い返すため、ある者は諦めるために、望む方向へ歩き出す。

 そんなもんだろ、と泰成は今まで、生易しく考えていた。人間いつまでも嘆いてなんかいられないんだから。恋人を奪われようが、会社を潰されようが、腹も空くし眠くもなる。
 彼らを愚かだと笑っていられたのは、その強さを知らなかったせい。
 金も力もなく、夢も希望も奪われて、それでも彼らは立ち上がる。前へ進むにも、後ろへ下がるにも、立ち上がらなければ生きていけない。
 そうやって顔を上げられる人間が、本当に強いのだろう。
 大きな力で我が侭に振舞う泰成が持っているのは、暴力でしかない。
 頑張れば何でも出来るわけじゃない。
 でも頑張らなければ、何も出来ない。

 生きていることがつまらなくて、一人で拗ねていた自分を、泰成は心から恥じていた。何にも本気にならず生きてきたから、彼はそんなことも知らなかった。
 そうして、占い師シルヴィアの言葉を思い出す。

 ―――不幸を享受して甘えるのも、快楽に溺れて逃げるのも、死んでいるのと同じことだわ。

 言われたときには、少しも理解できなかった言葉。
 彼女には泰成の本質が見えていたのだろう。つまらない、下らないと愚痴を零すばかりで、何一つまともに向き合わなかった泰成のことを。

 死ねないという不幸を受け入れ、何事にも向き合わない惺。
 面白いことがないと背を向け、手近な快楽に溺れるばかりだった泰成。
 自分たちは、似ているのかもしれない。
 だからこそ秀彬の健気な懸命さが、愛しくて仕方ないのだろう。

 溜め息を吐いた泰成は、ゆっくり前髪をかき上げた。
 一睡もしていない顔は憔悴していたが、それでも彼の瞳には、今までにない落ち着きと、強い光が宿っているように見える。
 
 
 
 窓から外を見ていた泰成は、ホテルの入り口に飛び込んでくる人影を見つけ、コートを手に部屋を飛び出した。
 エレベーターを待つのは面倒だとばかりに階段を駆け下り、フロントフロアへ急ぐと、そこでぜいぜい息を切らせる男を見つけて駆け寄る。