「ミスター!」
「あ…ああ、笠原くん。ま、待たせたな」
小太りの中年男は、秀彬が茶葉を買っていた店の主人だ。泰成から事情を聞いて、彼は警察署へ詰めていてくれた。
今までの横暴さが災いして、警察から情報を回してもらえないだろう泰成に代わり、いち早く秀彬の情報を掴むために。
店主は言葉にならないほど息を切らせ、肩を上下させていたが、力強く泰成の腕を掴んでくれる。
「っ…は、は…き、君の予感は、正しかったよ」
「それでは」
「さっき、保護された。今は警察にいる。急ぎなさいっ」
秀彬が保護されても、自分への連絡は最後になるはずだ。泰成の話していた通りになったと、彼は切れ切れに言って、苦笑いを浮かべてくれる。
店主の身体を支え、そばの椅子に座らせた泰成は、厳しい表情で顔を上げた。
「ありがとう。感謝する」
「なんの…構わんよ。見たところ怪我はしていないようだ。彼が無事で良かった」
「誰か!この方に水を頼むっ」
ホテルの従業員に向かって叫ぶと、泰成は深く頭を下げ、駆け出した。
秀彬が戻ってきたのなら、もう立ち止まっている必要はない。
駆けつけた警察署では、泰成を呼べと主張してくれている女性警官と、聞き入れようとしない男性警官が、言い争っている真っ最中だった。
泰成の祖国ではほとんど見かけない女性警官だが、この国ではそう珍しい存在でもない。しかし彼女たちが対等に男性の警官と言い合う姿を、泰成は初めて見た。
金切り声を上げている女性警官は、署の入り口に現れた泰成を見つけ、駆け寄って来てくれる。
「今、お知らせしようと思っていたの」
「ありがとう、話は聞いている。それで、私の従者は?」
「こっちよ。あなたの名前を繰り返し呼んでいるの…来て」
彼女は手続きも何もかも後回しで、泰成を案内してくれる。それを自分の力だと自惚れるような気持ちは、もう今の泰成にはなかった。
足早に先を歩いている女性警官。彼女はちょうど、秀彬の母親くらいの年だ。きっとあの子の姿に心を動かされたのだろう。
行き着いた先で、彼女が扉を開けてくれた。中で大人たちに囲まれている少年は、肩から毛布を掛けられ、小さくなって俯いていた。