「秀彬っ!」
思わず大きな声でその名を呼ぶ。
泰成の声に顔を上げた少年は、青ざめてはいるが、確かに怪我をしている様子はない。その張り詰めた表情が、泰成を見るなりふにゃりと歪んだ。
「たい、せい…さま…泰成様っ」
粗末な椅子から立ち上がり、飛びついてくる。華奢な身体をぎゅうっと抱きしめた泰成は、自分の胸の奥で何か重たいものがゆっくりと下がり、逆に形にならない熱いものがこみ上げてくるのを感じた。
「良かった…無事だったんだな」
「ごめんなさい…ごめんなさいっ」
「もういい。悪かったのは私だ…怪我は?どこか痛めたりしていないか?」
何度も頭を撫でながら聞くと、秀彬は大丈夫だと言うように首を振り、しかし辛そうな顔を上げた。
「僕は、大丈夫です…でも惺様が…っ」
「ああ」
「惺様が、迎えに来て下さってっ…でも代わりに捕らえられてしまって!」
「…そうか」
「僕、ぼく一緒にいるって…でも惺様が帰りなさいって、おっしゃって…だから」
「いいんだ、わかっているよ。お前は何も悪くない」
「泰成様…」
「惺は必ず助ける。…ともかく、お前が無事で良かった…」
少し痩せたように見える、小さな頬。
涙を溢れさせ、目を真っ赤にして泰成を見つめる秀彬の頭を、自分の胸に強く抱きしめた。
惺が心配ではないといえば嘘になるが、本人も言っていたように、死なない身体をしていることも事実だ。その分、犯人が残虐になることも考えられるが、今、秀彬の前でそれを口にするべきじゃない。
泰成の顔を見て少しは安心したのか、身体の力が抜けてしまいそうになる少年を支えたまま、泰成は隣にいる女性警官に目をやった。彼女は二人の再会に、目を潤ませてくれている。
不躾にならない程度に、注意深く彼女の姿を観察する。この国の警官は地位を表すバッジを胸につけているが、それを見ると彼女は珍しく女性ながら、それなりの立場にいるようだ。
「レディ、貴女の名前を聞いてもいいだろうか?」
「…ミセス、ブラウンよ」
「失礼、ミセス・ブラウン。今回の事件について話したいことがあるのだが、聞いていただけるか」
噂に聞く横暴な東洋人が、やけに丁寧な言葉で自分に話しかけることなど、あまりに予想外だったのだろう。