彼女はしばらくの間、探るような鋭い視線を、泰成に向けていた。しかし、ぼろぼろと泣きながら泰成にしがみついている秀彬が、一心に信頼を寄せている様子を感じ取って、彼女も泰成を信じる気になってくれたようだ。
泰成の真剣な瞳を見つめ返し、力強く頷いた。
「いいわ。話して」
「ありがとう。…この子は例の連続殺人犯に捕らえられていたんだ。引き換えに、今は私の友人が拘束されている」
「なんですって?!」
「彼は事件を目撃していないのだが、現場の近くにいたことで、そう勘違いされたらしい。犯人から呼び出しを受け、自ら出向いていった」
「なんてことを…」
「ああ、無茶は承知している。しかし我々は、どうしても先に、この子を救い出したかった。あなた方に伝えるのが遅くなってしまったことを、許して欲しい」
素直な詫びの言葉に、ミセス・ブラウンばかりか、その場に居合わせた警官たちが顔を見合わせている。
泰成の傲慢な態度を、実際に目にしていない者ばかりだったのは、幸いだった。彼らは伝え聞いた、悪魔のような東洋人の話の方を疑いだしているようだ。
「それで?」
「この子が捕われていた場所がわかれば早いんだが…どうだ、秀彬?」
腕の中にいる少年へ尋ねると、彼は辛そうに首を振った。
「申し訳ありません…気がついた時には暗い部屋で後ろ手に縛られていて、そこから解放されたときは、目隠しをされていて…どこかの屋敷だと思うのですが、場所がどこかはわかりません…」
「仕方ないわ。私たちが保護した時も、彼は目隠しをされて後ろ手に縛られたまま、路地裏に放置されていたんだもの」
「なるほど…。なら秀彬、最初に捕われた場所はどうだ?」
「はい。声を掛けられて、振り向く寸前に気を失いましたが、気を失う寸前までいた場所ならわかります」
「いい子だ。ミセス・ブラウン、地図を用意してもらえるか?私の考えを話したい。解決には至らないと思うが、糸口ぐらいにはなるだろう」
彼女の命で、すぐに街の地図が用意された。
泰成の丁寧な説明を聞く間、集まってきた担当の者たちの中には、泰成に手柄を奪われ恨んでいる者もいたが、論理的な泰成の説明を聞くうち、話の重大さに気づいて彼らもしだいに顔色を変え、深刻になっていった。