【この空の下にG】 P:06


 
 
 
 
 
 泰成と秀彬がその場から解放されたのは、二時間が経った頃。快く解放されたというより、泰成が秀彬の体調を盾にとって逃げ出したという方が正しい状況だった。
 警察署から出てくると、そこには秀彬を心配する人々が集まっていて。また三十分ほど足止めされることになったが、泰成は彼らを急かしたりはしなかった。
 彼らのおかげで、泰成はいち早く秀彬の無事を知ることが出来たのだ。

「泰成様っ」

 ようやく顔なじみの人々と別れ、少し離れた場所で見守っていた泰成の元に、秀彬が駆け寄ってくる。

「もういいのか?」
「はい。申し訳ありませんでした」
「構わんよ…行こうか」

 秀彬はしっかりした足取りで、いつもと同じように少し後ろを歩こうとしていたのだが、泰成は構わずに彼の肩を抱いて、少年を守るように歩く。
 しばらく黙っていた泰成は、警察署から遠ざかり、角を何度か曲がった人気のない路地で立ち止まった。

「泰成、様?」
「なあ秀彬。体調はどうだ?疲れているとは思うが、もう少し付き合えるか」

 その口調に、泰成が何か、惺を救うため動こうとしているのを察したのだろう。少年は力強く頷いた。

「僕は大丈夫です」
「ああ。…本当は早く休ませてやりたいんだがな」
「惺様がお戻りになるまで、休むことなんか出来ません」
「そうだな」

 きっぱりした秀彬の言葉に、泰成は優しく微笑んだ。そうしてまた、彼の肩を抱いたまま歩き出す。滞在しているホテルとは真逆の方向だった。

「…思い知ったよ」

 ぽつりと泰成の零した言葉が理解できずに、秀彬は首を傾げて主人を見上げる。

「何を、ですか?」
「お前を失うことが、どんなに大変なことか。身に染みて思い知った」
「あ…」
「お前がいないと、何一つままならない。私は一人部屋に残されて、お前の言葉を噛み締めていた」
「泰成様…僕は、あの…出過ぎたことを」
「いや、お前が正しかったんだ。私には何も見えていなかった。惺に言われたよ…本当に強い人間というのは、お前のように勇気のある者なんだと、ね」

 優しく微笑んでいる泰成を見上げ、秀彬は真っ赤になってしまう。

「もったいない、お言葉です」
「そんなことないさ…なあ、秀彬」
「はい?」