「私の勝手な振る舞いを、許して欲しいんだが…どうかな」
「泰成様…?」
「私の元に、戻ってくれるか?いつか笠原の家を継ぐ時。お前以外の家令は考えられないんだ」
ふっと立ち止まって肩を抱く手を緩めると、泰成は真剣な目で秀彬を見つめた。
こんなにも真摯に主から見つめられたことなんかなくて、少年の顔はいっそう赤くなっていく。
「あ、あの…」
「嫌か?」
「とんでもありませんっ」
にやりと笑った泰成は、秀彬のよく知る少し意地悪な顔。ようやくほっとして、少年は強く泰成の手を握った。
「泰成様」
「ああ」
「…いつまでも、貴方のお傍に仕えさせて下さい。もっとお役に立てるよう、努力いたしますから」
父のように、祖父のように。代々笠原家に仕えてきた者たちに並べるよう。これからもたゆまぬ努力を続けると誓う少年をぎゅうっと抱きしめ、ありがとう、と囁いた泰成は、彼の肩を抱いて再び歩き出した。
「しかしお前は、もう少し息抜きをすることも覚えた方がいいぞ?」
「息抜き…泰成様のようにですか?」
「…言うじゃないか。まあとりあえず、私の寝室に入ってきた時、真っ赤にならない程度にはな」
からかわれたと知って、少し拗ねた表情を見せる秀彬の頭を、泰成は笑いながら撫でてやった。
「しかし全ては、惺を取り戻してからだ」
「はいっ」
「警察の協力は得られたが、それだけではまだ足りない。もう一人、どうしても力を借りたい人がいてね…おそらく、お前自身が直接会った方が話も早いだろう」
「力を借りたい人、ですか?」
「ああ」
「今からどこへ向かうんですか、泰成様」
「娼館だ」
さらりと返された言葉が、いまいち理解出来なくて首を傾げていたのだが。秀彬はそれを理解した途端、また顔を赤くして目を見開いた。
「えええっ!娼館?!しょ、しょうかんって、女の人がいるあの、娼館ですか?!」
「他にどんな娼館があるんだ?」
「で、でも、だって…そんなっ」
「行ったことは?」
「ありませんっ!」
「そうなのか?私がお前くらいの頃は、入り浸っていたもんだがなあ」
「泰成様と僕を一緒にしないで下さいっ」
「深川に桔梗って女がいたんだよ。こいつが面白がって、色々教えるものだから…」
「聞きたくありませんってば!」