慌ててそばを離れ、耳を押さえたまま首を振っている秀彬を見て、泰成は笑い出した。
「ははは!お前はまったく。時々大人びたことを言うかと思えば、色事に関しては本当に子供だなあ」
「ほっといてください!」
「まあまあ。何もこんな状況で、お前に女の世話をしようというんじゃないさ。これから会う女が、たまたま娼婦なんだよ」
「た…たまたまって」
生娘のようにうろたえる秀彬を面白がって笑いながら、いいからついて来い、と泰成はまた歩き出した。
泰成が入り口をくぐったのは、言わずと知れたシルヴィアのいる娼館だ。前回惺を伴って来た時と同じように、娼館には相応しくない昼日中からそこを訪れた泰成は、今回も世話役の老婆を金で黙らせ、シルヴィアを呼ぶよう伝える。
しばらくすると彼女は、変わらぬ態度で泰成の前に現れた。
「久しぶりだな」
「…もう来なくても良かったのに」
嫌そうな顔で泰成の元に近寄った彼女を見て、秀彬はすっと立ち上がった。
黙って椅子を引いてくれる見覚えのない少年。泰成の前では受けたことのないレディとしての扱いに、彼女は訝しげな表情を浮かべている。
「………」
「え?…あの、何か…」
泰成が一人で来ていた時も、惺と二人で来た時も、立ち上がって椅子を引いてもらったことなどない。女性ならしてもらって当然のことだが、娼婦の自分が受けるにはあまりに紳士的な行為。
どうしたらいいのかと固まってしまったシルヴィアを、秀彬の方も困惑して見つめる。二人から救いを求めるような視線を受けて、泰成は微笑んだ。
「この子は私の従者なんだ」
「従者…」
「座ったらどうだ?」
勧められて、シルヴィアは戸惑いがちに椅子につく。泰成のそばに突っ立ったままの秀彬を見上げていると、泰成も少年を振り返った。
「お前も座りなさい」
「はい、泰成様」
素直な少年と泰成のやり取りに驚いたのか、シルヴィアはしばらくの間、口を開かなかった。
「シルヴィア?」
「え…ええ。どうせ占いでしょ」
「ああ」
軽く首を振って、いつもの調子を取り戻したシルヴィアは、テーブルの上に布を広げてカードの山を置く。