【この空の下にH】 P:02


「そうそう。いつだっけなあ?小汚ねえガキをやたらと連れてくるようになったの」
「二ヶ月ぐらい前じゃねえか?その辺の浮浪児に金やって、何人も何人も連れ込んでよう。旦那は施しだなんて言うが、アレでわかんねえつもりなんかね?」

 そこでようやく、泰成は話に興味を持ったかのように首を傾げた。

「なんだ?施しなんだろ?」
「アンタ若いから、わかんねえか」
「どういう意味なんだ…教えてくれよ」
「俺らも雇われてっからなあ」
「そう言うなって。他で言ったりはしないから」
「絶対だぞ。バレたらヤベえんだから」
「わかった誓う」

 泰成はふざけて胸に手を当て、宣誓してみせる。
 ノリも気前もいい東洋人に気を良くした二人は、泰成を通りから少し屋敷の方へ引き寄せて、声を潜めた。

「足りねえんだよ」
「足りない?」
「ガキだガキ。風呂入れてやって、新しい服を着せてやって、メシ食わせて帰す時にな。ガキの数が足りねえんだ」
「おい…それって」
「だからヤバいんだよ。ガキどもが帰ると旦那は、決まって奥の離れにお篭りだ。何をしてんだか」

 下卑た笑いを浮かべる二人は、泰成の驚いた顔に満足げだ。

「しかも、いなくなんのは男の子だけ。女の子にゃ見向きもしねえ」
「アレだろ、旦那も嫁さん死んで長げえからよ。溜まってたんじゃねえの」
「最近じゃ旦那自身が、浮浪者のカッコで街をうろついてるって言うぜ」
「お貴族様の考えるこた、わっかんねえよな。金があるなら普通に女でも買えよって話だろ」
「イイんだよ、きっと。行き場のねえガキ犯すのが、たまんねえのさ」

 いくら殺人鬼探しに出向いてきた悪趣味な泰成とはいえ、そういう趣味は持ち合わせていない。二人の話を聞いていると、吐き気がしそうだ。
 捕われていた来栖秀彬(クルスヒデアキ)が何もされなくて良かったと思うのと同時に、惺(セイ)の無事が気に掛かる。

「この街も終わりだな」

 門番の一人がぼそっと呟いた。

「まあな。ただでさえ殺人鬼がうろついてんのに、取り締まる警察は無能。しかも市長が強姦魔ときたもんだ」

 答えるもう一人の言葉。
 市長の住む屋敷を見上げ、泰成はきつく眉を寄せていた。
 
 
 
 
 
 ここを特定したのはシルヴィアだ。
 彼女は惺の居場所と同時に、連続殺人の犯人と、その穢れた動機を知って、顔を真っ青にしながら「なんてことなの!」と叫んでいた。