【この空の下にH】 P:03


 犯人がわかった途端、殺された人々の無念な想いが、彼女の中に流れ込んできたのだと言う。

 ―――こんな力があるから嫌な思いばかりするのよ!占いなんて出来なければ良かった!なんて、なんて酷いことを!!

 秀彬と泰成が彼女を宥め、聞き出した話はさすがに気持ちのいいものではなく。あまりに酷い話を聞いて、泣き出した秀彬の横にいた泰成さえも、言葉を失って青ざめるしかなかった。

 惺が捕われているのは、街で一番大きな屋敷。つまりは市長の邸宅だ。
 そこでは街で殺された者の他に、たくさんの少年が惨殺され、埋められているという。
 少年たちは養子にしてやるという市長の言葉に騙され、他の子供たちが帰っていく中、こっそり屋敷に隠れているらしい。そうして夜な夜な、誰もいない真っ暗な部屋へ連れて行かれて、市長に犯され絞め殺されるのだ。
 市長が浮浪児たちを好むのは、彼らなら捜索を願い出る人間がいないから。確かに泰成は、あんなにも連続殺人事件を嗅ぎ回っていたのに、少年たちが行方不明になっているという話を一度も聞かなかった。

 胃の中のものを全て吐き戻し、それでも自分が見たものを処理しきれないシルヴィアは、まるで自分が殺されるかのようにガタガタと震えていた。
 許容を超える怒りと悲しみに、正気でいることも狂気に落ちることも出来ないシルヴィア。
 自分の占わせた結果に、泰成が言葉を掛けることも出来ず、身動き出来ないでいると、力強く彼女を抱き起こしたのは、自身も泣いている秀彬だ。

 ―――行ってください、泰成様。

 守るようにシルヴィアを抱きながら、秀彬は泰成を見上げる。

 ―――ここは僕が引き受けますから。泰成様は惺様の元へ行ってください。

 力強い言葉に促され、泰成は何事かと遠目に見ている娼館の老婆に小切手を書いて渡した。娼館ごと買い上げられるような金額だ。
 それを渡しながら、自分がシルヴィアの身柄を引き取る旨を告げる。

 ―――よもや足りないなどとは、言わないだろうな?今後一切、シルヴィアには関わるな。

 釘を刺す泰成の言葉を聞いているのかいないのか、老婆は泰成の切った小切手を凝視しながら、何度も何度も頷いた。

 秀彬たちの為に馬車を呼んで、シルヴィアを自分たちの滞在しているホテルへ連れて行くよう告げ、自分は市長の屋敷へ向かう。