初めて目にする、惺の力。
穿たれた場所の周囲が盛り上がり、骨で止まっていたのだろう弾を、排出する。
ことん、と音がしてそれは床に落ちた。
じわじわ塞がっていく傷。ぴたりと傷が塞がり、盛り上がっていた肉が平たく落ち着いてしまうと、残るのは血の痕だけだ。
不思議な光景に、泰成は目を見開く。
おぞましさは感じない。ただ不思議で、そうして哀しさが心に満ちていく。
惺の手がゆっくりと、もう消えてしまった傷を塞いだ。
「…見るな」
「惺…」
辛そうに眉を寄せて泰成から目を逸らす惺が、自分のことを嫌悪しているのだとわかって、泰成はただ細い身体を抱きしめる。隠そうとする手の上から、自分の手をあてて力強く握り締めた。
「化け物めっ」
銃を握る男が吐き出した。
泰成は惺を抱いたまま顔を上げ、市長を睨みつけた。
「化け物はどっちだ」
「なんだと…」
「この屋敷の庭に、何人の少年が埋められているんだ。貴様の薄汚い欲望のため、犠牲になった少年たちの顔を、覚えているかね」
「うるさい、黙れっ!」
銃を手にしたまま頭を押さえ、首を振る市長を見据えたまま、泰成は惺を壁に寄りかからせて、立ち上がった。
「泰成、やめなさいっ」
「…すまない」
止めようとする惺の手を引き離し、そのまま額に口付けた泰成は、市長に向き合った。もう、限界だ。
「私はどうしても、この男を許すことが出来ない」
「泰成っ」
近づいてくる泰成に向け、市長は引き金を引くが、露見した己の罪に震える彼の銃口は定まらず、泰成の頬を僅かにかすっただけだった。
それでも皮膚を焼く熱さと、血が溢れてくる傷の痛みはあったが、泰成は構わず殺人鬼の方へ歩いていく。
「最初に犯した少年がこの屋敷から逃げ出したときは、焦っただろうな。何もかもが思いがけない出来事だったんだろう?…自分が少年を陵辱してしまったことも。ほんの少し目を放した隙に、少年が逃げ出したことも。だが追いかけた貴様は、ナイフを手にしていた。自覚していようが、していまいが、貴様は殺す気で少年を追いかけたんだ」
シルヴィアが語った、一番最初の殺人。
その時だけは市長の動揺も伝わってきたと、彼女は言っていた。
街で見かける少年の可愛らしさに、市長は彼を屋敷に連れ込んだ。しかしいつまでも自分に慣れず、帰りたいと泣き喚く少年を、とうとう押さえつけたのだ。