【この空の下にH】 P:09


 少年は最期に母を求めて悲痛な叫び声を上げた。
 まるで今その声が彼女に聞こえたかのように、身体を震わせ涙を零しながら、シルヴィアはその時の様子を語っていた。

「何人目から、人を殺すことに快楽を覚えたんだ?殺された少年たちは、貴様に命乞いをしたか?」

 目の前に立った泰成を、恐ろしいものを見るように怯えて見つめる市長は、再び銃を向けるが。泰成は彼が引き金を引くより早く、その手首を掴んで、捻り上げた。

「街で起こる殺人に気を取られ、人々は家を持たぬ子供たちが何人消えようと、気にもしなかった。貴様はそれに気を良くして次々に少年を誘い込み、彼らを殺すたび街で殺人を繰り返す」
「あ…ひ、あ」
「最初に殺した少年が目立たぬよう、少しずつ殺害現場をずらし、目的をかく乱しようと、この屋敷から遠ざかった。あからさまに遠ざかるのも怖くて、結局はらせん状に殺害現場を選ぶ。時には警官の格好をして。時には浮浪者の格好で。…ゲームは楽しかったかね?市長。しかしそれも、終わりだ」

 捻り上げた手首を強く引き下ろし、掴んでいた銃を落させると、泰成は市長の脇腹を膝で蹴り上げた。

「ぐっあ、あ!」
「痛いだろうな。恐ろしいか?しかしここで殺された少年たちの恐怖は、こんなものじゃなかっただろうよ」

 少年たちの痛みを受け取って、シルヴィアはとうとう悲鳴を上げた。彼らの恐怖を見た彼女は、少年たちの代わりに何度も何度も「ごめんなさい」と叫んでいた。
 あの姿を見たとき、泰成は面白半分に事件を見つめていた自分を、初めて恥じたのだ。秀彬の諫言が、今さらのように突き刺さって痛かった。

 膝を折り、うずくまろうとする市長を許さず、泰成は彼を引きずり上げて頬を殴りつける。何度も何度も殴りつける泰成に、市長はとうとう「殺してくれ」と喚きだした。

「こ、ころせ!もう殺してくれっ」
「ふざけるなっ!貴様にそんな祝福を与えるつもりはない!!」
「ひっ!」
「地位も権力も奪われ、人々に晒され、己の罪に向き合って、もがき苦しむがいい」
「やめ…やめ…」
「無様だな、市長。今度は貴様が自由を奪われる番だ」

 泰成が手を離すと、彼は慌てて落した銃を拾おうとするが、それを阻止されると今度は錯乱して部屋の中を逃げ回り、ソファーの影にうずくまって震えだした。
 言葉にならない言い訳を繰り返す市長に背を向け、泰成は惺を抱き上げる。

「…容赦のない」
「これくらいで何を言ってる?秀彬を攫い貴方を傷つけたんだぞ。本当なら万死に値する」
「泰成…」
「しかし貴方が法で裁かせろと言うから、手を引いてやるんだ」