尋ねると、主人の服をかけお茶を手にした秀彬が、嬉しそうにティーポットを差し出した。それには見覚えのないニットが被せられていて。
「見てください、泰成様。これシルヴィアさんが作って下さったんです」
「なんだ?これ」
「ティーコジーよ。知らないの?」
「いや…見たことはあるが」
「保温カバーだ。この国ではお茶が冷めないように、ポットにこういうものを被せて使う」
「へえ…詳しいんだな、惺」
「僕もこの国へ来て長いからな」
確かに丸く編まれたニットが、落ち着いた色柄でポットを包んでいた。
「これを、シルヴィアが?」
「はいっ!僕のセーターを解いて、編んでくださったんです」
「ああ、どこかで見た色だと思ったら」
成長期の秀彬が、首都から持ってきたものの小さくなってしまって、着られないと言っていたセーターだ。
思わぬシルヴィアの家庭的なところと、器用なところを知って、泰成は呆れた顔になる。
「…なんで女は、こういうことが好きなんだか」
「どういう意味よ」
「いや別に」
「買えばいいと言いたいの?いいじゃない無駄がなくて!頼まれても貴方になんか編まないわよっ」
きいっと声を荒げて席を立ったシルヴィアに、慌てた秀彬が何事か一生懸命、話し掛けている。二人の姿を苦笑いで見ていた泰成は、惺の後ろに腕を回した。
「お前が悪い」
「わかってる」
ぼそりと小さな声で諌められ、泰成は肩を竦めて仲良く話すシルヴィアと秀彬を見つめた。
泰成が滞在しているこの部屋は、ホテルで一番広く豪華な部屋だ。
今、彼らのいるリビングフロアに、泰成と惺が使用している主寝室。他にも副寝室と、それよりも少し狭い部屋が一室備えられている。
シルヴィアがここへ来た日に、秀彬はその一番狭い部屋へ自分の荷物を移し、彼女に副寝室を譲った。最初シルヴィアは恐縮して、秀彬の申し出を断ったのだが、少年が頑として聞き入れないことを知ると、素直に喜んで秀彬の心遣いを受ける気になったのだ。
それ以来この二人は、姉弟のように仲がいい。
泰成はシルヴィアを見つめたまま、惺の耳に唇を寄せた。
「なあ、惺」
「なんだ」
「例の人探しの件なんだがな」
「いや…あれはもう」