【この空の下にI】 P:05


「お前…あの時はずいぶんと腹を立てていたじゃないか。なのに、そんな冷静に物事を見ていたのか?同時に?」
「昔からそうなんだ。感情と思考は別というか、どんなに腹を立てても、逆にどんなにその場が楽しくても、頭の中の冷たい部分は拭えない」
「器用な奴だな…」
「前に彼女は、占い師は自分のことなど占わない、と言っていた。思うような結果が出なかったらどうするんだとね。確かに自分の不幸な姿が見えたら、生きていく気力も失せるだろう」
「………」
「あの時、貴女が占いを拒絶したのは、自分の姿が見えたから。そうだな?」

 泰成に尋ねられたエマは、もう仕方ないと諦めたんだろう。ゆっくり頷いた。

「そうよ…エマという名を聞いたとき、自分と同じ名前だとは思ったけど、まさか本当に私のこととは思わなかった。でも占ってみて、自分の姿が見えて、それに…」

 エマは言いにくそうに、ちらりと上目遣いで惺を見る。それに気付いた惺は、落ち着いた表情で目を閉じた。

「構わないから、続けなさい」
「でも」
「いいんだ。泰成にも想像はついているだろうからな」

 先を促され、エマはその時のことを思い出したのか、僅かに表情を強張らせる。

「…占っているとき、同時にセイと私を繋ぐ糸が、自分の中に流れ込んできたの」
「糸?」
「ええ…どうしてこの人は、私を探すんだろうって思って、そうしたらセイの知る人物から私まで繋がる、膨大な人間の姿が一気に流れ込んできて…怖くなって」
「………」
「一人の人間が、生きているうちに出会う人間の数を、越えていたわ…何十世代、数百年にもわたる人々よ」
「それが一度に見えたのか。なるほど、処理し切れなくて、当然だな」

 あっさりエマの言葉を信用し、頷く泰成を見て、彼女は意外そうな表情になる。
 それに気付いた泰成は、にやりと笑いかけた。

「私にとっても惺は謎の多い人物だが、貴女の話を信じる程度には、事情をわかっているよ」
「ああ…そう、そうなの…」
「大まかな事の次第は、秀彬にも話してある。何しろ連れて帰ってきた血まみれの惺を見るなり、卒倒したんでね。安心させてやりたかったんだ」

 いけなかったかな?と尋ねる泰成に、惺は驚きを隠せない顔で秀彬の顔を見つめていた。

「君は…知っていたのか?」

 呪われた自分のことを。
 このおぞましい身体を。
 細々と惺の世話を焼いてくれる秀彬は、少しも態度が変わらなかったのに。