「ちょっと待て、惺」
「?…なんだ」
「それじゃエマも答えようがないだろ。貴方が渡したいものは、具体的に何なんだ?そもそも何代にも渡って彼女の系譜を見つめてきた貴方が、今さらエマを探してまで渡そうと思った理由は?」
ああ、そのことかと納得して、しかし惺は言いにくそうに口ごもる。泰成は黙って見守っている秀彬と、顔を見合わせた。
「我々がいない方が話しやすいなら席を外すが、たぶん隣の部屋で聞き耳を立てることになると思うぞ」
「泰成様!そのようなことっ」
いけません、はしたない。と、子供を相手にするようなたしなめ方をする秀彬に、惺どころか顔を青くしていたエマまでが笑った。
「いいわ、話して…下さい」
「そんな風に畏まらなくていいんだよ、エマ。今さらだろう?」
「…はい」
「そうだな…確かに僕はずっと、折を見て預かったものを返したいと思っていたし、そう考えて君たちの家系を見てきた。しかしなんと言うか…躊躇いを覚える状態だったからな」
「ええ、知ってるわ。私の家系は、随分と酷いことをしてきたんでしょう?」
「ああ。預かっているものは、僕にとっても大切なものでね。今までの君の家族では、右から左へ売り捌きかねないと思ったんだよ」
その様子を思い出したのか、惺は難しい顔をして眉を寄せている。
エマも困ったように、肩を竦めていた。
「どうしたものかと思っていたとき、風の噂に君の話を聞いた。幼い少女が、監禁され重労働を強いられていた人々を勝手に解放し、当主の怒りを買って家から放り出されたとね」
「そうね…それも理由の一つだけど。主な理由はこれよ」
言いながらエマは席を立ち、窓際のテーブルに置いてあるカードを手に取った。
「私の母は、旅に生きる民族の女だった。その母を一目見て気に入った当主が、強引に攫って手篭めにし、生まれたのが私」
「エマ…」
「母は踊り子だったけど、代々占いを家業にしていたそうよ。私はその血を濃く受け継いでいた。…父からは魔女だと、ずっと蔑まれていたの」
淡々と語る彼女の言葉に、泰成と秀彬は言葉を失ってしまう。ふと目を上げたエマは泰成の向こうに青くなった秀彬を見て、苦笑いを浮かべた。
「そんな顔しないで。もう終わったことなのよ」
「…はい」
「母が死んだとき、私は初めて自分を占ったの。そうして自分が、近いうちに売り払われることを知った。怖くてたくさん泣いたわ…。でも私、どうせ自分が捨てられてしまうなら、父に復讐してやろうと思ったの」