【この空の下にI】 P:08


「それが、監禁されていた人々の解放なのか?」
「ええ、そうよ。彼らを解放したら、父が酷い目に遭うのはわかっていた。抑圧されていた彼らの憎しみは、一気に父へと向かうとね」

 その時のことを思い出したのか、エマは僅かに頬を強張らせて、目を閉じる。
 彼女が今しているのは、告解なのだ。
 まだ幼かったエマは、自分が売り払われる前日の夜に、捕われていた人々を解放した。彼女のいなくなった後、解放された人々は武器を手に立ち上がった。

「…血が流れるのはわかっていたわ。これで自分が、本当に魔女になってしまうってこともわかってた。でも、それでもいいって思って…」
「エマさんは魔女なんかじゃありません」

 彼女に歩み寄り、そう言い放ったのは秀彬だ。彼はカードを握る彼女の手を、上から優しく包んだ。

「僕は貴女が優しい方だと知っています。貴女がどんなに理性的で、頭のいい女性かを、ここにいる全員が知ってるんです」
「ヒデアキ」
「確かにそうだな」

 泰成も立ち上がると、エマのそばへ来て彼女の肩を抱き、秀彬ともどもソファーのある暖かい場所へ連れ戻した。

「この国では貴女のような女性を魔女と言うのか?残念だな。私の国では、巫女と呼ぶんだよ」
「ミコ?」
「神々に仕える者、という意味だ。なにしろ私の国は、やおよろずのの神といって、800万もの神がいるそうなのでね」
「…信じてない顔ね」
「当然だ。会ったことがない」

 偉そうな顔で言い張る泰成に、エマと秀彬は笑っていたが、一人沈黙する惺は、少し顔色を悪くして唇を震わせていた。
 何か傷つけるようなことを言っただろうか、と泰成は気になったが、自分が追求することでもないと、隣に座ってただ優しく彼の肩をさするだけにする。

「運が良かったな」
「…私の?」
「いや、あんたの父親だ。復讐に燃えた娘がエマで良かった。それがもし私だったらもっと大変なことになっただろ」
「そうですね…泰成様のなさる復讐なんて、恐ろしくて考えたくありません」
「お前は本当に…言うようになったな」
「貴方様の教育を受けておりますので」
「はいはい」

 腕の中の惺が気持ちを立て直したのを見計らい、泰成はとん、と彼の肩を叩いて手を離した。

「それで、惺はエマに何を渡すんだ?」
「…僕に貸し与えられている土地と、そこに建っている屋敷だ。秀彬、この国の地図はあるか」
「ございます。少々お待ちください」