「遊んでるって、会長だって一緒じゃないですかあ」
後輩の甘えた声に軽口で応えるナツは、僕のそばまで来ると、申し訳なさそうな顔で両手を合わせた。
「悪かった!な?そう睨むなよ。ちゃんと仕事するから」
完全に僕の視線を勘違いしてる。
なんでわかんないの?!僕がこれくらいのことでナツを睨んだりするわけないじゃない!
ナツの仕事量が一番多いのも、それをちゃんと片付けることも、僕が一番良く知ってるんだよ!
「…アキ?どうした、機嫌悪ぃな」
「お前が遊んでっからだよ、会長」
幼稚舎から一緒で、書記を任せてる同級生にツッコまれたナツは、大げさによろめいた。
「うげっ、オレのせい?なあアキ?アキさ〜ん?ごめんってば。な?ちゃんと働くからさあ」
「…別に怒ってるわけじゃないよ」
「怒ってンじゃん」
「しつこいよっ怒ってないってば!」
思わず言い返してしまった僕は、慌てて口を噤んだ。みんないるのに、何してるんだろう。
どうしていいかわからず下を向いた僕のこと、ちょっと驚いた顔で見ていたナツは、とりなすように他のみんなに向かって肩を竦める。
「あ、わかった。甘味不足だろ。誰か〜女王様にお茶と茶菓子持って来〜い。あと直人のカフェオレ〜」
空になってた僕とナオのティーカップを後輩に差し出して、さらっとその場を片付けてしまったナツは、僕の手元を覗き込んでくる。
「で、なんの書類?」
すごく自然に、誰にもわかんないように、ナツはこつんって僕のつま先を足でつついた。これは「わかってるよ」っていう合図。
ほっとした僕はナオに取ってもらった書類を差し出した。
「新歓イベントの企画書。どうしよっか」
ズルいかもしれないけど、うまく流してくれたナツに乗っかってしまう。
受け取った書類を眺めるナツの向こうでは、凍っちゃってたみんなが、それぞれ動き始めていた。
その、さらに向こう。
藤崎先生が僕を見てるのに気付いて、あからさまに背を向ける。だから、あなたがいるからこんなことになるんだよっ。
「あ〜…来週の?」
「うん。まだ何にも決めてなかったよね」
新入生って言っても、ほとんどが中等部から上がってくるだけだから、大して代わり映えしない顔ぶれだけど。
水曜日の昼以降、授業を休みにして生徒会主催のイベントを行うってことで、時間だけは確保されちゃってるから、何か考えなきゃいけない。
「今年の外部は何人だっけ」
「8人って聞いたよ」
「内部進学組の帰宅部は15人だったよな」
「また争奪戦になるね」
去年もそうだったけど、新歓のメインはクラブ勧誘なんだ。
入れ替わりのほとんどない学校だから、クラブに入っていないまま上がってくる生徒と、高等部から嶺華に入ってくる外部入試の生徒が、一部のクラブ間で取り合いになってしまう。
「その23人を、どうやって守ってやるかだよな」
書類片手に行儀悪く、机の上で足を組んでいるナツ。でもナツの頭の中にはきっと、もう企画が出来上がってる。
在校生も新入生も盛り上げたいし、新入部員を欲しがるクラブ側の希望も叶えてあげたい。でも僕たちが一年だった時みたいに、学校中使って追いかけっこなんて企画になったら、必ず脅されて入部届けを出す生徒が出てくる。
ま、その辺の駆け引きは、ナツの得意とするところだから任せておいても大丈夫。
ナツは新入生の名簿をぱらぱらめくっていたかと思うと、いきなり「面接とかどうよ?」と言い出した。
「…え?面接?」
ぽかんとして聞き返すのは、淹れてもらったカフェオレに口をつけていたナオ。僕もちょっと意味が理解できなくて、首を傾げてしまった。
「誰の面接をするの?」
「新入生の」
「…誰が?」
「オレが」
「…ええ?!」
にっこり笑うナツは当然って顔で、新入生全員の名簿を顔の横に掲げた。
「オレが新入生全員に直接会って、レポートを作成する。それを新歓で直々に紹介すんの。もちろん面接ん時に、部活に対する希望も聞いとく。このオレ様が保証人なんだから、強引な勧誘は出来ないだろ?面白そうじゃん」
また……いきなり何を言い出すんだか。
「ナツ、新入生が何人いるか、わかってんの?!」
もう新歓イベントまで10日しかないって言うのに、ナツは自信あるみたいで、笑顔のままスラスラと計画を話し出した。
「わかってるさ。今年は少なめで、107人だろ?もちろん個別はムリだから、7人を13組8人を2組で107人。1グループ1時間で一日3組こなせば5日で終わる。昼休みと放課後2組なら問題ねえし、土日除いても明日から初めて二日余る計算」
言いながらノートパソコンを開いたナツは、きれいにデータ化された企画を開いていた。