【その瞳に映るもの@】 P:07


「生徒会の顧問は、教師と僕らの連絡係をやってくれればいいんですっ」
「そうはいかないよ」
「誰の指示でそんな勝手なこと言ってるんです?先生を顧問に任命した人が、そう言いましたか?!毎日毎日、あなたがここへ来るだけで仕事が遅れるんですよ!」
 今までの先生は、こんな風に生徒会運営に口を挟んだりしなかった。
「先週だってそうだ。予算の試案は出来てるのに、書面を先に出せなんて、どっちが先でも同じですよ。ナツの頭には全部入ってるんだ」
「生徒会はナツくんが一人で運営しているわけじゃ…」
「あなたにいちいち言われなくても、わかってます!」
 誰より嶺華を大事にしてるナツ。誰より生徒のことを考えてるのもナツだ。
 だからこそナツは三期もの間、生徒会長をやってるし、みんなナツを信じてついて来てくれるのに。
 悔しくて腹が立って、苛立ちが治まらない。
「嶺華は生徒会長の指名制で、生徒会を運営するんです。ここにいるみんなが、ナツの提案に逆らうはずない」
「そもそも、今までのそのやり方がマズイんだろう?」
「そんなこと、あんたに関係ないだろ!」
「アキっ!」
 怒鳴った僕の腕を引っ張り、藤崎先生と僕の間に入ったのは、笑みを消した渋い表情のナツだった。
「…ナツ…」
「言い過ぎだ、アキ」
 なんで?
 なんでナツが先生を庇うんだよ。
 握り締めた手が震えてくる。僕はナツの為に言ってるのに、どうしてナツにはわからないの?
「どうしたんだよ、冷静になんな?…先生の言うことは間違ってないだろ」
「なに言ってんの?!この人はナツの足を引っ張ってんだよ!」
「そうじゃないって…なあ、アキ?オレたちは今まで、他の先生たちの放任主義に甘えてたんだ。そうだろ?先生はここへ来ないもんだと思って、好き勝手やってた」
「違う…違うよ、ナツ」
 どうしちゃったんだよ。ナツが好き勝手にしたことなんて、今まで一度もないじゃない。なんでそんな、苦笑いで僕のこと見てるの。
「まあ落ち着けって。ここに顧問の席があるってことは、先生の同席のもとで生徒会運営をするのが当然なんだ。今までがオカシかったんだよ」
「ヤメてよ!なんでこんな人を庇うの!」
 信じられない!
 なに丸め込まれてんの?!
「一琉ちゃんは、確認してるだけだろ?今まで一度だって反対してないじゃん。どうなってるの?って聞かれて、オレが説明して納得してもらって、それで進めてんだから、お前もいい加減慣れろよ」
 な?って。僕の前髪を軽く引っ張ったナツの手を、振り払った。
 悔しい……悔しくて、泣きたくなる。
 こんなにもナツが僕の気持ちをわかってくれないの、初めてだ。
 ナツの余裕が窺える顔を見てると、どんどん気持ちが暗いほうへ傾いた。
「なに日和ってんの…」
「アキ」
「馬鹿みたい。先生に媚売るなんて、そんなのナツらしくないよ」
 ああ、違う。
 こんなこと言いたいんじゃないのに、言い出したら止まらない。
「媚を売ってるわけじゃないって」
 辛そうな顔で微笑んでるナツを見てたら、意地悪な気持ちがどんどん収まらなくなっていく。
 姿の形も、魂の形さえ似た、僕の双子。
 傷ついた顔をして、僕を見つめてる。
「何か弱味でも握られた?」
 その言葉を口にした途端、堰を切ったように、酷い言葉ばかりが僕の中に溢れ出していた。
「落ち着けよ、アキ」
 何もかもわかってるって顔をして、何もわかってくれないナツ。もっと傷つけてやりたくなる。
 もっともっと傷ついて、僕のこの、泣きたいくらいに痛い気持ちをわかればいい。
「落ち着いてるよ。落ち着いてるから聞いてるんだ。このキレイな顔に騙された?ねえナツ、笠原家の人間が、こんなどこの誰かもしれない教師に丸め込まれて、大笑いだよ。おじい様が知ったら、どんなに失望されるだろうね?」
 それが一番ナツの嫌がる言葉だって、知ってて言い続けてる僕は、最低だ。
「どうせ先生も、笠原家の恩寵に預かりたいだけなんだから。そういうの、今まで何度も経験してるのに、ほんと懲りないよねナツって」
 僕らの母親が、日本で有数の名家である笠原家の娘だって知って、オイシイ思いをしたくて、僕らにまで擦り寄ってくる連中がいるのは本当。ナツがそのせいで、何度も傷ついたり嫌な思いをしてきたのも、本当のこと。
 でもそんなことは、今ここで言うことじゃない。
 自分の愚かさに絶望的な気持ちになればなるほど、僕はナツを傷つけるような言葉ばかり探してしまう。
 どうしよう、止まらない。
 ナツの瞳がぐらっと揺れた。青ざめてる顔の中で、唇が震えてる。
 酷い……僕は最低だ。ナツは泣きそうなくらい傷ついて、でも必死で堪えてるってわかってるのに。
「言いたいことがあれば、言えば?」
「…………」
「なに黙ってんの?」