そんな大きなものは守れなくてもいいから、自分の大事なものくらい、守れるようになりたい。
「言いたいことがあれば、言えば?」
アキに責められているうち、大きな津波にでも飲み込まれたみたいに、もう手出しできない、どうしようもない過去が襲い掛ってきた。
思い出したくないことが、次から次へと浮かんでは消える。
「…………」
「なに黙ってんの?」
アキからそんな風に言われても、開きかけたオレの唇は、何を言うべきか命じられず、閉じることさえ出来なくて、震えだしていた。
ダメだ、オレが弱音なんか吐いてちゃいけない。
やらなきゃいけないのは、今しんと凍ったように時間を止めているこの場を、収めることのはずだ。……でも咄嗟に言葉が浮かんでこない。
そのとき、誰かがぱんっ!って。
周囲に響くような音で、手を叩いた。
目の前のアキもハッとしたみたいで、ぎきしゃくとオレから目を逸らしてしまう。
自分が何を言ったかわかって、顔色を無くしていくアキを見てたら、やっとオレのカラカラに渇いた口も、役目を思い出してくれたみたいだ。
この場を収めようと、オレが口を開きかけたとき。先に誰かがアキの手を掴んでいて……それは、一琉ちゃんだった。
「ちょっとおいで」
「なに…離してよ」
嫌がるアキを、オレたちより5センチくらい背の低い一琉ちゃんは、厳しい表情で見上げる。
「いいから来なさい」
びしっとたしなめられ、アキがおとなしくなった。アキを掴んでない方の手で、一琉ちゃんはオレの背中を何度か、優しく叩いてくれて。そのせいで、ふうっと肩の力が抜けた。
「わかんなくて、ごめんな…」
聞こえなかったかもしれないけど、オレにはそれしか言えない。
ごめん、ごめんなアキ。
オレはいつまで経っても、お前をちゃんと守ることが出来ない。
酷いことを言ったって、きっとアキは苦しんでる。
あんなこと、言わせちゃいけなかった。