なんかオレのことを優先してくれたみたいで、オレのことわかってくれてるって思えて……今考えたら、けっこう身勝手に喜んでいたかもしれない。
そうやってオレが変にはしゃいでしまったせいで、言えなくなったのかな。
でもさ。志望学部なんて、一緒じゃなくても大して問題じゃないじゃん……オレはアキが同じ工学部へ進まないことなんかより、それを言ってもらえなかったことの方がずっと辛いよ。
そんな頼りない?
自分の気持ちを打ち明けられないほど、アキにとってのオレは、つまんない存在なのかよ。
でも今こうやって、アキのことを何もわかっていなかったと突きつけられて、立てないぐらい動揺してるオレは、まるで子供だ。自分の無力を自覚できないでいる、頼りない存在。
ははは……もう、いっそ笑えるって。
いつからアキとこんなに離れてしまったんだろう。それとも、同じ場所に立っていると思っていたのはオレだけなのか?
ああもう、アタマ痛てえ。後頭部がズキズキ疼いてしかたない。
アキに伝わってるかな。心配させてるかもしれない。
昔はアキを心配させないよう、ケガとか病気とか、なんとか隠そうと思って、色々やってたよ。でも、どれも上手くはいかなかった。……オレに何かあると、小さいアキはいつも泣いてたから。
痛みなんかに負けたくなかった。
どんなことがあっても、平気で立っていたかった。
――アキ泣かせないように。
頑張ってきた、つもりなんだけど。
でも傲慢なオレの思い込みは、どうやら空回りしていたみたいだ。
「…行かねえと…」
ふらふらしながら立ち上がる。
こんなとこに、しゃがんでる暇はない。
修正した後期予算を試算して、来月の学食メニューが上がって来てるはずだから、それも確認して。一年生と二年生の中間テスト、成績発表の準備もしないとだし、7月には二年生の修学旅行もある。
階段を降り始めたオレは、自分が抱えてる仕事に、初めて興味をなくしているのに気付いてた。
――違うだろ。
興味があるとかないとか、関係ない。
やらなきゃいけないことをやるだけだ。オレに立ち止まってる時間なんか、ないだろう?
でも誰もいない廊下に立つと、自分が逃げたくなってること、わかっちゃうんだ。
このまま帰ってしまいたい。
アキに会いたくない。
……ああ、こういう気持ち。
アキがオレと、ずっとすれ違っていたのは、オレに会いたくないからなんだ。
それでもオレは、重い足を引きずって生徒会室へ向かう。
逃げたい気持ちはどんどん大きくなっていて、叫びだしたいくらいだけど。逃げるという行為それ自体が一番怖い。
自分で背負った責任から逃げてしまったら、オレはアキからも嶺華からも、必要とされなくなってしまう。
ずっとオレの中にある、不安の正体。
子供の頃から思ってたことだ。
――なんでオレは、双子なんだろう?
世界にはアキしかいらなくて、アキさえいれば、周囲の人たちは幸せなんじゃないだろうか。
ある日突然、オレがいなくなってしまっても。
そこにアキがいれば、みんな幸せでいてくれる。自分の存在しない、アキしかいない世界を想像すればするほど、幼いオレは怖くて仕方なかった。
笑いかけてくれるアキだけが、オレを認めて、繋ぎ止めてくれていたんだ。
「遅っせーよ会長!!」
ドアを開けるなり言われて、オレは苦笑いを浮かべた。
「悪ぃ、手間取った」
「なんだよ?山野になんか言われたか?」
「ぼくの前で先生を呼び捨てにするのは、やめてもらおうか」
ちょっと睨むような視線で一琉ちゃんにたしなめられ、オレに声を掛けたクラスメイトが頭を掻く。
「スイマセン、いつものクセで」
「まあ、ぼくも学生の頃はやってたけど」
にやりうと笑う一琉ちゃんの表情に、一瞬張り詰めた生徒会室の空気が、途端に崩れた。
「なんだよも〜…脅かすなよ一琉ちゃん」
わあっと笑いが起こって、オレは笑みを浮かべながら、アキを探して。
目が合うなり、逸らされた。
「…………」
アキの視線はさまよって戸惑って、一琉ちゃんの方を向いてから、オレのところへ戻ってくる。
「えっと、出来ることはやっといたよ」
そんな困った顔で笑うなよアキ。そんな顔されたら、どうしていいかわかんなくなるじゃん。
「会長、聞いてくださいよ〜」
「どうした?」
ソファーの上に鞄を置いて、近づいてきた背の低い後輩の頭を撫でてやる。
会長って呼ばれるのが、すごく重い。
三年生の多い生徒会で弄られるばかりの後輩は、それをオレに一生懸命訴える。でも今のオレは、曖昧に笑うばかりで、気の利いた答えを返してやれない。
アキの方が生徒会長に向いてないか?
オレがやる必要はあるのか?