「わかってるって、平気平気」
扉までたどり着き、ドアに手を掛けたオレはほっとして振り返ると、一琉ちゃんを探した。目が合った一琉ちゃんは、オレが何を言わなくても、そばまで来てくれる。
「…大丈夫かい?」
心配そうに尋ねられ、オレは口元だけ笑って、生徒会室の中に背を向けた。
「平気だって。…なあ一琉ちゃん。悪いんだけど、来週の月初総会はオレが仕切るって、山野先生に伝えといてくれる?」
「月初総会?」
不思議そうにオレを見上げる一琉ちゃんの瞳は、間近で見るとすごく綺麗な色をしてるんだ。
なんだかそれ見てたら、張り詰めてたものが少しだけ解ける気がした。
「そう。そう言えば、山野先生には何のことかわかるから」
「…わかった」
「みんなにも黙っといて。…とくにアキには秘密にするって、山野先生と約束してるんだ」
アキにも言うなという、珍しいオレの要望。一琉ちゃんの瞳がすうっと細くなる。
「山野先生が、了承していらっしゃるんだね?」
「そうだよ。このサプライズは、山野先生の希望だから」
嘘じゃないよな?アキに黙ってろって言ったのは山野先生だ。
「…………」
まだ何か言いたそうに、一琉ちゃんはオレを見上げてた。探る瞳が怖くて目を逸らさずにいられない。
「心配しなくても大丈夫。オレがそういうの得意なのは、もう知ってるだろ?」
にっと笑うと、ようやく肩を竦めて頷いてくれた。
「まあね」
「よろしく」
……もう、限界だ。
一方的に言ったオレは、一琉ちゃんの答えも聞かずに生徒会室を出る。扉を閉めた途端に、その場を少しでも早く離れたくて走り出していた。