きつく睨む僕の前で、ナツは驚きにゆっくり目を見開いて。しばらくすると、何も言わずに目を閉じた。
「わかった」
「…………」
「酷いこと言って、悪かった」
謝る声が震えてる。
背を向けるナツを見ていて、驚きに固まってしまうのは僕の方。ナツの目の淵が少しだけ赤くなってる。自分の唇が、僅かに熱い。
それはナツが、痛いくらいに唇を噛み締めてる証拠だ。僕たち双子は、痛みだけ互いに伝えることが出来るから。
やっぱり僕らの痛みを伝え合う感覚は、なくなってなんかいないんだ。
「ナ、ツ?」
「先に帰る。鍵掛けといて」
鞄を手にナツが出て行く間、僕はどうすることも出来なくて。ぱたりと閉まったドアの音に、苦しいくらいきゅうっと、胸が締め付けられた。
あの顔、知ってる。
ナツがあんな風になる瞬間を、僕はよく知ってる。
「…ナツ、泣いてる…」
呆然と呟いた僕は、腕の中の藤崎先生を抱きしめた。
どうしよう……僕が泣かせたんだ。
混乱してよくわからない。
子供の頃、ナツが泣いてる姿は何度か見ていた。
おばあ様が亡くなった時、人目につかないところで泣いてたナツのそばにいたのは僕だった。
婿養子の父さんが、遠縁の親戚から酷い言葉で中傷されたときにも、ナツはベッドに潜って泣いてて、僕がそばにいた。
幼馴染みの直人が、出会う前にどれほど辛い目に会ったか知った夜だって、ナツは声をかみ殺して泣いてて。あの時は僕も隣で、一緒に泣いてたから。
「…行かないと…っ」
抱きしめてた先生を離し、駆け出そうとした僕のことを、藤崎先生が強い力で引きとめた。
「待ちなさいっ!」
「でも、ナツが…っ!」
「いま君が行ったらナツくんは余計に泣けないだろう?!涙の理由がわからないとでも言うつもりなのかっ!」
先生の言葉に驚いて、僕はがくりと膝をつく。
……僕だ。
僕がナツを泣かせた……。
「どうしよう…どうしたら…っ」
動揺する僕のこと、先生が抱きしめてくれて。僕は華奢な身体に縋りつき、ただ震えていることしか出来なかった。