【その瞳に映るものF】 P:11


 先生の身体を引き離すと、先生は物足りなさそうに自分の唇を舐める。
 誘惑しないでってば。頭が身体に追いつかないよ。
 僕から遠ざけられてしまった先生は身体を起こして、僅かな喘ぎに身体を震わせながら、着ていたシャツを脱いだ。それを乱暴にベッドの下へ放り出してしまう。

 先生はずっと見ていてくれたんだね、僕のこと。ナツのことしか見てなくて、先生に噛み付いたり、周りの人間を振り回したりしてる僕のことを、見てたんだ。
 僕の胸の辺りに手をついて、熱い息を零しながら、僕を見下ろしてる先生の身体に触れる。腰から胸まで撫で上げてくと、先生は切なく眉を寄せて、目を閉じた。
「あ…っ」
「好きだよ、先生」
「っ、アキ…」
 こんなにも僕を求めてくれる人、他にいると思う?もしどこかにいたとしても、僕は迷わず先生を選ぶけど。
 どうしようか……ここで先生を抱いたら僕は離れてくナツを、追えなくなるよね。もうナツしかいらないなんて、言えなくなるよ。
 親指に当たる胸の突起を、ぐいって強く押し上げたら、先生はびくんって震えて首を振った。
「ふ、あ…」
「先生、僕がしてもいい?」
「んん…っぁ」
「言ってよ。僕を欲しい?」
 服の上から、熱くなってる前を掴む。先生が髪を揺らせながら、ゆっくり目を開けた。その瞬間、涙が零れてくる。
 まるでスローモーションみたいに、雫が僕に落ちてきて。先生の綺麗な唇が薄く開いた。
「アキ…っ」
「うん」
 熱い息を吐き出していた唇は、そのままにいっと吊りあがる。こんなときまで意地悪な顔を見せるんだから。
「ぼくと…したい?」
「…ずるいよ」
「ふふっ…そうだね、ずるいかも」
 何度かまばたきをして、先生は僕の顔を撫でる。
「先生が言ってよ」
「なんて?」
「欲しいって。…僕にされたいって、言ってよ」
 涙で瞳を濡らせてるくせに、先生は少し首を傾げて僕を見つめる。本当に意地悪だね、先生は。
 でも僕も譲っては上げられずに、先生のベルトを緩めると、熱くなっているものを直接握り込んだ。
「っ…!アキ」
「誘ったのは先生でしょ?先生が許してくれないと、これ以上出来ない」
 意地を張る僕のこと、ぼうっとした目で見つめて。先生は溜め息を吐いた。
「…君だけだって、わかってるね?」
「先生…」
「君にしかこんなこと、させないよ」
「…うん。わかってる」
 ずっと僕を見ていてくれたこと。ちゃんと伝わってるから大丈夫。頷く僕に、先生はようやく微笑んでくれた。
「アキ…」
「好きだよ、先生」
「ん…好きにしなさい…君なら、何をしてもいい」
 その言葉を聞いて、僕は起き上がる。
 今度は僕が先生を組み敷いた。
「僕はもう…ナツのこと、独占できなくなっちゃうね」
 僕の言葉に、先生はゆるゆる首を振る。さっきまで偉そうな態度で、意地悪なことばっかり言ってたのに。急にそんな可愛い顔するの、反則だよ。
「寂しくなったら、鬱陶しいくらい先生に甘えるからね」
「ん…」
「離してあげないよ」
 生まれたときから一緒にいたナツが、一人でどこかへ行ってしまうのに。それでも僕は、先生といるから。先生を選ぶから。
 大変だよ、先生。
 覚悟しといて。
 先生は僕の頭を引き寄せて、キスをねだる。深く口付けて離しても、足りないって首を振っていた。
「…ん、っと…もっと」
「いいよ、あげるから」
「ん、ぁ…ああっ」
「欲しいだけあげるよ、先生」
 捕まったのはどっちかなって、そう思うと先生が愛しくて仕方なかった。
 
 
 
 明かりを消す余裕もなくて、皓々と明るいベッドの上。僕に脱がされて一糸纏わぬ姿になった先生が、空を掻くように足先に力を込める。
 その足を掴んで、僕は咥えていたものをずるりと口から引き出した。
「ぁあ…やっ」
「いい、の間違いでしょ?日本語は正しくね、先生」
 見せつけるように舌先で強く先生のものを弄ると、細い背筋がのけぞる。辛そうに首を振る先生のものをまたゆっくり口に含んで、強く吸い上げた。
「ひ、あ!あああっ」
 吐き出されたものを飲むのって、もう何回目だろ。ぐったり身体を投げ出してる先生は、恨みがましい目で僕を睨んでいた。
「なに?」
「っ、ふ…また、ぼくばっかり…っ」
「そうは言うけど、しょうがないでしょ。先生が痛がるから」
 僕の指は、先生の後ろに入れたまま。
 知識はあってもさすがに、同性とするのなんて初めてだから。どれくらい慣らせばいいのか、ちょっと判断がつかない。
 ……文句言わないでよ、僕だって辛いんだからね。
 僕に無理矢理乗っかって、襲ってきたくせに、先生も同性とするのは初めてだとか言うんだ。
「それでもこういうの、用意してるあたりが大人だよね」