【その瞳に映るものG】 P:05


「モデルみたいだねえ。そうして並んでたら、なっちゃんが小さく見える」
「ほっとけよ。こいつこれでも、中学生なんだぜ。まだ伸びるかもな」
「そうなの?!大人っぽいのね。いいな、かっこいいっ」
「ママ…かっこいい人好きだもんねえ…」
「あら!一番好きなのはパパよ?」
「そうかい?ぼくが一番好きなのもママだよっ」
「もう…頼むからそういうのは、二人だけの時にしてくれって」
 脱力気味に呟いて、ちらりと垣内に目を遣った。笑みを浮かべて様子を見守ってた垣内だけど、小さく頷くと父さんたちの方へ回ってくれる。
「旦那様、奥様。お急ぎになりませんと。相手様をお待たせしてしまいますよ」
「でもぉ…ねえ、藤崎くん。しばらく泊まるの?」
「いえ、あの」
「タケルは明日帰るよ」
「え〜!そんなのつまらないわ。しばらく泊まっていけばいいのに」
「そうだよ、せっかく会えたのに」
 ほら始まった。このままじゃ、また予定をキャンセルするとか言い出しそうだ。
「また今度来てもらえばいいだろ?タケル困ってんじゃん」
「奥様、車の用意も出来ておりますから」
「そうやって追い出すんだからっ。ねえ藤崎くん、また来てくれる?」
「はい」
「ほんとよ?約束だからね!」
「約束します」
「絶対よ!来てくれなかったら泣いちゃうからねっ」
 泣いちゃうじゃないだろ……年、考えろよ母さんっ。
「わかったって!いいから急げっ」
「なっちゃんも、時間のあるときはちゃんと帰ってきてよ!」
「わかったわかった。いいから早く車に乗って!見送ってやるからさっさと行けっ」
 垣内とオレに追い立てられ、二人は渋々って顔で車に乗り込んだ。でもまだ窓開けて、タケルに「きっとよ!」って声をかけるんだ。
「あ〜もう、しつこい!しっかり仕事しろよ二人ともっ」
 オレが早く車を出すよう、運転手に指示を出す。走り出した車から手を振って、母さんは最後とばかりに叫んでいた。
「またね、藤崎くん!なっちゃん、愛してる〜っ!」
 ……やられた……。
 最後のあ
のセリフ。毎度のことなんだけど、せめてタケルの前ではやめて欲しかったのに。
 疲れきってしゃがみこむオレに、タケルが手を差し伸べてくれて。掴んで立ち上がると、タケルはとても楽しそうに笑っていた。
 
 
 
 
 
 オレの両親に会って、タケルは一気に緊張が解れたみたいだ。
 まあな、あの人たちに会えば、大抵の人は緊張していられなくなる。
 あの二人はすぐ、自分たちの高いテンションに他人を巻き込んじゃうんだけど、自分たちがポジティブなのもあって、絶対にその場を嫌な空気にはしないから。最初はびっくりする人でも、しばらくしたら笑って、一緒に喋ってるんだ。
 父さんたちのそういうところ、尊敬してるよ。

「先輩の両親って感じだよな」
 オレがバスから出てくると、先にバス使って着替えてたタケルが、部屋に置いてある写真立てを見てぼそっと呟いた。
 普段はアキと二人だけの部屋にタケルがいる、なんとなく不思議な空間。
 思えばこの部屋に、アキが不在のとき家族以外の誰かがいるなんて初めてだ。
「あんなテンション高いか?オレ」
 ようやくスーツを脱げて、ラフな格好になったオレは、濡れた髪を拭きながらタケルの座ってるソファーへ近づいていく。
「そうじゃなくて…」
 ちょっと首を傾げ、優しい表情を浮かべたタケルは、オレの顔を見上げて。口を噤んだ。
「?…なんだよ」
「いや…そういう格好を見たのも、初めてだと思ったんだ」
 そういう、格好?
 オレは自分の全身を見下ろす。家の中は空調管理がしてあって涼しいけど、さすがに7月ともなれば、オレの着ているのもTシャツにハーフパンツだ。
「自分の家だし、こんなもんじゃね?」
「先輩がそういう、くだけた格好してるのってイメージなかった」
「そりゃ、イメージ崩して悪かったな」
「違うって」
 タケルが手を伸ばしてくるから、髪を拭いてたタオルを置いた。
 何だろう?と思いながらその手に掴まると、一気に引っ張られ、タケルに抱きしめられてしまう。
「う、わっ!びっくりすんだろっ」
「可愛いって、思ったんだ」
 耳元で囁かれ、背筋がぞくっとした。状況に対応しきれず、固まってしまう。
「先輩?」
 タケルに呼ばれて正気に返ったオレは、あたふたと離れ、隣に座る。
「お前さ、男相手にあんま、可愛いとか気軽に言うなよ」
「仕方ないだろ。そう思ったんだ」
「アキの方が可愛いじゃん」
「…同じ顔だろ?」
「そうだけど」
 造作は同じでも、アキの方が柔らかい表情してると思うしさ。
「なあ、先輩。まだアキさんに話、してないのか?」
 ちらっとタケルを見たら、心配そうな表情を浮かべてる。ふっと息を吐いて、オレは弱気な顔を晒した。
「何も言ってない」