【その瞳に映るものG】 P:09


 オレの背中を支えるタケルの手が強く引きつけると同時に、凄まじいくらいの快感が身体を突き抜けて。オレは震えながらタケルの手を汚すと、そのままぐったり倒れ込んでしまった。
 
 
 
 オレの服を調え、そっとソファーに寝かせたタケルが、ゆっくり立ち上がって離れいく。視線で追うと、タケルは放り出したままになってたタオルを持ち上げていた。
「…使って、いいか?」
 オレの髪を拭いてたタオル。何を拭くのに使うかわかって、その生々しさに耐えかねて、顔を背けながら「使えよ」と返事をする。
 なんかもう、疲れて起き上がる気力もないけど。恥ずかしさが波のように引いていったら、ふつふつ怒りがこみ上げてきた。
 好き勝手しやがって。
 ――どいつもこいつも。
 大体、アキはオレと自分が痛みで繋がってるって知ってんだろ?もうちょっとなんかさ、気をつけるとか注意するとか、ねえのかよ。
 戻ってきたタケルが、そばに座り込む。収まらない荒い息を吐きながらそっちを向いたら、タケルの瞳がちょっと、潤んでいるように見えて。一回イッたくらいでは欲情を昇華しきっていないんだと気付き、また恥ずかしさがこみ上げてきた。
 くそ……なんなんだよっ。
「なあ、千夏…大丈夫か?」
 伸ばされる手を、がばっと起き上がって叩き落としてやった。
「千夏って呼ぶなっ」
「だって…」
「誰の許しを貰ってオレを呼び捨てにしてんだテメーは!」
「そんなこと言っても。…ずっとそう呼びたかったんだ」
 しょげ返るタケルは、上目遣いにオレを見てる。
 だからそういう顔をすんなってんだよ!さてはお前、オレがお前のそう言う顔に弱いって、気付いてんだろっ。
「さんざん好き勝手にしやがって」
「そんな」
「急ぎすぎなんだ!こういうのは、何か段階とか手順とか、そういうのを踏めよっ」
「アンタだって気持ち良さそうだったじゃん…俺の手でイッたくせに」
 むうって、拗ねた顔。ちょっと子供っぽくて、やっぱり中学生だと思ったら、悔しさが恥ずかしさに入り混じってしまう。
「人に心の準備もさせないで…生意気言うのは、この口かっ」
「いひゃい…」
 オレに頬をつねられて、タケルは痛みに眉を寄せた。
 ほんとにもう、告白してそっこーでこんなことするなんてっ!
 頬から手を離し、ぺしっと頭を叩いて立ち上がる。痛そうに頬を撫でるタケルはオレを見上げながら「そんな、嫌だったのかよ」って呟いた。
「なんだって?」
「そんな怒るほど、嫌だったか?俺に触られるの」
「お前ね…」
 違うだろうが。すでに嫌とかいいとかの問題じゃない。
「好きだって言って、返事も聞かずにオレを押し倒したのはお前だろっ」
「じゃあ返事、聞かせてくれよ」
「甘えんなっ」
 恥ずかしくて仕方ない。
 タケルに熱い言葉で告られて、大きな手で翻弄されて、それが全然イヤじゃないなんて。こんな目に遭ってもまだ、そばにいて欲しいと思ってるなんて!
「千夏っ」
 離れてくオレを、タケルが慌てて呼んだけど。じろりと睨んだら、はっとして「ナツ先輩」って呼び直してる。
 ああもう、可愛いよお前は!確かに参ってるよっ!でも言ってやらないからなっ。
 ベッドまで歩いてって、アキの気に入ってるクッションと、ブランケットを一枚手にしたオレは、不機嫌なままタケルの元に戻ってきた。動揺してるタケルにそれを投げつける。
「お前はここで寝ろ。お前みたいなケダモノ、ベッドへは入れてやんねえ」
「…え…」
「オレから返事を聞こうなんて、百万年早いんだよ。反省してろ」
 ぷいっと背を向けたオレのこと、タケルがじっと目で追ってるのは、わかってたけど。振り返ってやらずに、一人じゃ広すぎるベッドへもぐりこんだ。
 そのまま目を閉じてしまう。
 身体には快楽の後の気だるさが残っていて、さほど時間もかからずに、オレは眠りについていた。