でもそういうのも、たまにはイイと思うなんて、ぼくも随分この子に溺れてるな。
アキの浅い息が聞こえてくる。切なく眉を寄せてるんだろう、その顔を想像するだけでイッてしまいそうなんだから。
「あ、んっ…あっ、いい」
「っ…ヤバ、せんせっ」
「いいっ…ああっ…アキ、アキっ」
「うん、いいよ。イッて?」
男っぽい声に唆され、壁についた手をきゅうっと握る。ダメだもう我慢できない。
いっぱいしよう、と言ってくれたアキを信じて、ぼくは僅かに背中を反らせた。背が高い分、大きなアキの手が受け止めるようにぼくのものを包んでる。
親指でその先を強く擦られた瞬間、頭の中が真っ白になった。
「ひ、あああっ」
ぱんぱんに詰まっていた欲情を吐き出すと、途端に身体の力が抜けてしまう。崩れそうになるぼくの腕、アキが強く掴んで自分へ引き付けた。
「っは…ぁ」
「出すよ、中。いい?」
「んっ…だして」
「せんせっ」
中を濡らしていくものが熱い。首筋にかかるアキの息と同じくらい。
「んんっ」
「好き…好きだよ…」
「アキ…」
ああもう、身体がぐらぐらする。脱力してしまうぼくを、しっかり支えてくれる逞しい身体。特に運動はしてないっていうのに……若さかな。
匂いでも嗅ぐみたいに、アキが鼻先をぼくの首にすり寄せる。顔向けると、唇を重ねてくれた。
「アキ…きもち、い…」
「うん」
嶺華の空調システムに救われる。汗ばむくらい熱くなって、それでも離れないぼくたちの身体を、少しずつ冷ましてくれる。
アキの唇が甘くぼくの耳朶を噛んだ。
「ぁ…っ」
「ねえこのまま、もう一度していい?」
「抜かずに?」
「抜かずに。だって中、ぬるぬるしてる」
甘えた声出して、この子は。セックスの間だけ可愛い顔をするのは反則だ、なんてアキはぼくに言うけど。君だってこんな時ばっかり全力で甘えてくるじゃないか。
「ん〜…あ、顔」
「顔?」
「顔見えるようにしてくれるなら、このまましてもいいよ」
後ろからがんがん揺すぶられるのもいいけど、やっぱり君の焦る顔を見たい。
「え〜と…じゃあさあ」
アキが何か言いかけたとき、ぼくのメガネと並べて棚の上に置いてあったアキの携帯が鳴りだした。
この音は、アキの弟だ。
二人で顔を見合わせる。
「…出るの?」
「急用だったら、もう一度かけてくると思わない?」
「そうだな」
「うん」
設定されている優しい女性ボーカルの着うたは、耳ざわりな電子音と違って鳴りっぱなしでも、あまり気にならない。
放っておくことに決めたぼくたちが唇を触れ合わせた瞬間、化学準備室のドアを誰かが外からドンッ!と強く叩いた。
再びアキと顔を見合わせる。
「…あ〜あ…もう」
一度鳴り終った着信が、再びアキを呼んで歌いだしていた。
ぼくを抱いたまま手を伸ばし、アキはそれに耳を当てている。
「…はあい」
がなり立てる声は、そばにいるぼくにも聞こえてきた。
『なにシカトしてんだお前はッ!』
二重になって、同じ声が外からも。
真面目だねえ生徒会長は。アキの双子の弟、ナツこと笠原千夏(チナツ)は、自分のことで忙しい毎日だというのに、学校の仕事も放っておかず、今日も元気に登校してきたらしい。
「ナツ〜…もうちょっと待てない?」
溜め息を吐くアキの、残念そうな顔。
ぼくは意地悪く笑って彼の手を取ると、ゆっくり弄るように舌を這わせた。
『…ちょっとって?』
不機嫌そうなナツくんの声。
「えっと…あと一時間ぐらい」
アキはぼくの口の中に、指を差し入れてきた。頬をすぼめて吸い上げる。
『お前ね…どこがちょっとだよ』
「じゃあ30分」
食い下がるアキの言葉に、ナツくんの堪忍袋の緒が切れた。
「ざけんな、とっと出て来いッ!オレが学校のマスターキー持ってるって忘れたわけじゃねえだろうなッッ!!」
再びドアの外から怒鳴られて、ぼくたちは仕方なく溜め息を吐き出した。
生徒会室へ移動しながら、アキはずっとナツくんから説教を受けている。
ナツくんはぼくらが出てくるまで、化学準備室の外で待っていたんだ。
前に「すぐ行くから」と返事をしておきながら、結局一時間以上睦み合っていたぼくらに懲りて、彼も学習したみたい。
「先生と付き合うななんて言わねえよ。場所を弁えろって言ってんだ」
「だってさあ、先生の家には武琉(タケル)くんがいるし、まさかウチでするのは…ナツが嫌がるじゃん」
「当たり前だろうがっ」
「ね?しょうがないでしょ」
「しょうがなくねえだろ!ちゃんと週に一度はタケル預かってんじゃねえか!」
ぼくとアキがこういう関係になってからというもの、確かにナツくんは週末の予定を空けて、弟の武琉を連れ出してくれている。それにしたって週に一度だ。