【その瞳に映るものH】 P:08


 弟は取り上げないなんて、約束しないほうが良かったかも。
「ナツ、大好き」
「知ってる。…別次元の同率一位、なんだろ?」
「そうだね」
 くすくす笑い会う双子の声は、重なり溶け合って、不思議なハーモニーを生んでいた。音楽には何の才能もないのに、そんなことを思うのは変かな?
 ぎゅうっとアキを抱きしめて、ナツくんが肩越しにぼくを見る。
「嫉妬した?」
「するわけないでしょ」
 本当はしたけど。
 笑いながらナツくんはアキを離し、それでも手を繋ぎそうな近さで、一緒にこっちへ歩いてくる。
「お前、今日も一琉ちゃんのこと送って行くんだろ?」
「うん。ナツはどうするの?」
「二台も車回してもらうの面倒だから、ここ閉めたらシェーナで待ってる」
 ゆっくりアキの背中を押し、腕を組んだ生徒会長は、急に眉を寄せ難しい表情をして、ぼくらを眺めた。
「…言っとくけど、一時間しか待たねえからな。もうタケルが帰ってて、8時にはご両親が帰ってくるって、忘れんなよ?」
 相変わらず口うるさいなあ。
 ぼくと顔を見合わせたアキは、本当に幸せそうな笑顔を浮かべた。
「わかってるよ」
「また電話で邪魔されたくなかったら、自分の言ったことぐらい守れよな」
「はあい。…先生、行こう?」
 ぼくが手にしていた鞄を取り上げ、きゅっと手を繋いでくれる。嫌そうな表情で手を振るナツくんに見送られて、ぼくはアキと学校を後にした。