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頂点を目指す太陽の光は、容赦なく部屋の中へ入り込んでくる。
一人きりのリビングで、ぼんやりとグラスを傾けた。つけっぱなしのテレビから、意味のない声が流れ続けてる。
主婦の相談を有名人が受ける、という趣旨の番組。不明瞭な視界で眺めていても、内容は頭に入ってこない。
昼間のテレビ番組って、こんなのしかないんだね。あとは途中から見ても理解出来ない、連続ドラマとか。
人の声が恋しくてつけてるのに、だんだん聞いてるのが面倒になってきた。
もうすぐ昼休み。
ぼくは朝のうちに学校へ電話をかけ、休みを申請して家にいる。
風邪をひいたなんて言ったけど、身体はいたって健康なもの。でも今日は少し、心が疲れて立ち上がれなかった。
社会人として失格だ。こんな人間が教師なんてやってていいのかな。
どんどん暗くなる思考を誤魔化す為に、朝からずっとウィスキーを傾けている。でも酔うことは出来そうにない。
こうなってくると、酒に強いのも考えものだ。せっかくの高いボトルなのに、味わうことの出来ないそれは、意味もなく減っていく。
空になったグラスを見つめ、溜め息を吐いてしまった。氷、無くなってる。
仕方なく立ち上がったぼくの耳に、携帯の着信音が響く。
うるさい……切っておけば良かった。
仕方なくメガネをかけたぼくが、眉を寄せて目を遣れば、表示されていたのはぼくの可愛い恋人の名前。
「アキ…」
呟いて、でもすぐには出られなくて。
じっと眺めているうち、音が止まる。
心配してるかな。学校でぼくが休みだと知ったアキは、きっと驚いただろう。
昨日まで風邪の兆候なんか、微塵もなかったぼくを、知ってるから。
一人きりになってしまった家に、ぼくは毎日アキを連れてきている。
寂しさを埋め合わせるように、アキの肌に触れ、アキの唇に甘えてる。そんなぼくを、彼は何も聞かずに、受け入れてくれていた。
基本的にあの子は、許容が大きいんだろうね。
自分のことに悩んでいた最中は、余裕を失っていたけど。ようやく落ち着きを取り戻したせいか、彼本来の、優しさと激しさを併せ持つ気性が、表に出るようになっている。
ぼくを抱いている間は意地悪で情熱的なのに、熱が冷めると穏やかで懐が深い。
ぎゅうっと抱きしめて、余計なことは言わずただ「大丈夫だよ」と囁いてくれる。
「出れば良かったな…」
アキの声、聞きたかった。
夢から覚めても寝付けなかったから、何度かアキに電話をかけようしたんだ。でも何を言うんだ?と思ったら、どうしてもかけられなかった。
自分の過去を話せるほど、ぼくは素直に出来てない。
……せっかくだから、かけてみようか?
かけたとしても、年下の恋人に泣き言なんか、言えるはずないんだけど。
迷ううち手に取っていた携帯。それは再びアキの名前を表示して鳴り始めている。
思わず笑ってしまった。
しつこいねえ、君は。
通話ボタンを押すと、ピッと小さな音がして。何も言わず耳にあてた携帯から「先生」と小さな声が聞こえる。
「…アキ?」
『うん。寝てた?』
ほんとに寝てたらどうする気?立て続けに携帯鳴らしたくせに。寝てたなんて思ってないんだろ。
「…起きてたよ」
『そっか、良かった。風邪だって?』
「ああ」
『…ふうん』
「なんだよ。疑ってるのかい?」
『うん』
あのねえ……否定しなよ、そこは。
「体調悪いんだよ。風邪かどうかは医者行ってないから、ハッキリはしないけど」
『そっか』
「それで?」
『ん?』
「何か用だった?」
素直じゃない自分が腹立たしい。
どんな理由でも、声が聞けて嬉しいって思ってるのに。
ぼくから冷たく言われたアキは、何か考えるように黙ったけど。
しばらくして「用はねえ」と呟いた。
「何?」
『先生に、質問』
「…え?」
『暇でしょ?質問するから答えてよ』
……いきなり何言ってんの、この子は。
『先生?』
「聞こえてる。呆れてものが言えなかっただけ」
『ははは!元気じゃん』
「元気じゃないから休んでるんだろ」
低い声で反抗するのに、高校生の恋人は聞きもしない。
『ねえねえ、質問。してもいい?』
「…いいよ」
アキの明るい声に、溜め息つきながら了承した。
つけっぱなしだったテレビを消し、散らかしていたテーブルの上のものを端の方へ押しやる。ソファーへ座り、そこへ足を投げ出してした。
こういう行儀の悪いこと、武琉がいたら絶対にやらないんだけどね。
『じゃあ最初の質問。先生は僕が好き?』
「君…どこでかけてるの」
最初から随分とヘビーな質問だ。
『教室じゃないから、安心して』
「答えなきゃダメなのかい?」