【その瞳に映るものJ】 P:08


「そうしてると、誰か自分より年上の人がいるみたいだ」
 ぼくの言葉にアキは何度かまばたきをして、不満そうにすうっと目を細めた。
「僕以外の人にドキドキするってこと?絶対許さないよ」
「違うよ…」
 ふっと口元を緩めて、アキに身体を寄せた。何もさせてもらえない手持ち無沙汰の指先で、アキの頬に触れる。
「本当は君だってわかってるから、余計にドキドキするんだ」
「…甘えたくなる?」
「そうだね」
 まるで自分を包み込むような、余裕のある大人がそばにいるみたい。我慢してる泣き言を、言いたくなるよ。
「いいんじゃない?一日ぐらい。今日は先生をお休みしたんだからさ…一琉(イチル)」
 アキが片手で前髪をかき上げてくれた。
 普段は呼ばない名前を囁き、唇を触れ合わせる。ぶどうの果汁が染み込んだ唇が甘くて、くらくらした。
「甘えるといいよ」
「…うん」
「して欲しいこと、全部してあげるから。何でも言って」
 掠れた声で囁かれ、ぼくはゆっくり目を閉じた。
「名前、呼んで…」
「…一琉」
「うん」
「一琉…可愛いね」
 ああ、ほんとに。全部預けてしまいたくなってきた。まだ高校生の君なのに。ぼくが寄りかかっても大丈夫?
「アキ…」
「なに?一琉」
「…ぶどう、食べたい」
 甘えるぼくの口に、ぶどうが一粒押し込まれて。ついでとばかりに器用な指が、口の中で上顎を撫でていく。
 ぼんやり目を開けた。
 メガネをかけていないせいじゃない。視界が歪んでる。
「…アキ」
「泣いてもいいよ」
 優しい声で囁かれると、胸がきゅうっと締めつけられた。
 ―――アキ、アキ…苦しいよ。
「…武琉がいないと、不安で寂しい…」
 またあの子が攫われちゃうんじゃないかって。もう二度と会えなかったらどうしようって。そんなことばかり考えるんだ。
 かあっと目蓋が熱くなる。目の端を伝う涙、アキが舌先で舐めとってくれた。
「わかった。助けてあげる」
「…うん」
「きっと助けるから、安心して」
 額に口付けてもらっただけで、本当に心が静かになった。
 今だけでいいんだ。君がそう言ってくれるだけで、ぼくはこんなにも救われる。
「ね、アキ…もう一度名前、呼んで」
「…一琉」
 両親が呼ぶのとも、友人たちが呼ぶのとも違う、アキの声。今日だけ許された、特別な響き。
 はあ、と熱い息を吐いて、ぼくはアキの顔を見つめた。
「…服、脱がせて。身体触って?」
 落ち着いたら、急に君が欲しくなったんだ。あけすけなぼくの要求に、アキが笑ってくれる。
「仰せのままに」
 幸せそうな顔でぼくの唇にちゅっと口付けたアキは、静かに身体を起して、ぼくのパジャマのボタンに指をかけた。
 
 
 
 たぶん、今までで一番優しく抱いてもらってる。まるで壊れ物でも扱うかのように、アキはぼくの身体に触れていた。
 いつものぼくなら、物足りなくて文句を言うところなんだけど。今日だけはそんな扱いが嬉しい。
 本当にぼくの言葉に従い、丁寧に服を脱がせて、身体を触ってくれる。
 輪郭を辿るように全身を触ってもらったぼくは、たまらずに自分から「舐めて」とお願いしていた。
 アキの手が触れているだけで、熱く勃ち上がっていたもの。直接舐められたら、我慢なんか出来なかった。
 今日のアキは何ひとつ逆らおうとしないんだ。意地悪するのも、焦らすのもナシ。
 確かに要求したことしかしてくれないけど、それは苛める目的じゃなくて。ぼくがして欲しいと口にすることを、ひとつひとつ丁寧にしてくれる。
 だから……ぼくは。けっこうきわどいことを、臆面もなく口走っていた。
 指を入れて、とか。
 中を弄って、とか。
 気持ちいいところ、探して……とか。
 明日になったらきっと、思い出すことさえ出来ないようなことばかり。アキに甘え自分だけ二回もイかせてもらって、ようやく身を起す。
「…アキの、舐めたい」
 上目遣いにぼくが言うと、アキはゆっくりソファーの上に座って、自ら前を寛げてくれた。
「いいよ、一琉。おいで」
 手を差し伸べられ、アキに這い寄って。もう大きく固くなってるものを、口いっぱいに頬張った。
 ぼくの口戯を褒めるように、アキが頭を撫でてくれる。手を伸ばしてぶどうを摘まんだぼくは、それを口に入れて再びアキのものを咥えた。
 甘いのと苦いのと、口の中でぐちゃぐちゃになってる。どうしよう、気持ちいい。
 アキの竿を擦りながら、口を離したぼくは、温くなったぶどうを噛み潰した。
「ね、出して…飲みたい」
「いいの?」
「うん。飲ませて」
 潰れたぶどうがまだ口に残ってるけど、そのままアキのを咥える。
 誰だったかな、食欲と性欲は直結してるから、食べながらすると興奮するって言ってたの。大学の友人だったかも。
 その時はバカ言ってるって思ってた。