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「だってお前んちのテレビ、デカいしさ」
嬉しそうに話す友人と歩き出したら、別のヤツが声をかけてきた。
「藤崎。お前んち今日、親いねえのか?」
「ああ」
「だったらさ、お前んちでやらねえ?兄ちゃんにスゲエの借りたんだ」
ひそひそ言うこいつは完全に『子供』。
兄貴経由でAVが手に入るの、自慢みたいなんだ。これもその上映会をやろうって話。でも聞いていればわかる。こいつの知識なんか、所詮AV止まりだって。
「悪ぃ、そういうの興味ねえ」
こいつは恋愛がしたいんじゃない。ただ女とヤリたいだけ。しかも妄想で済んでるんだ。だからお前は『子供』なんだよ。
「うわ、マジ?!キモいよお前」
「そうか?」
「不健全だって。絶対オカシイ」
「な、なあ…スゲエのって、どんな?」
いつもはゲームにうつつを抜かしてる友人まで、その話には興味があるみたいだ。二人を見てれば、俺の方がオカシイのかもしれないけど。
いらねえよ。どんなAV女優より千夏の方が絶対可愛いし、100本AV見るより一度でも千夏と手を繋げる方が、ずっとドキドキする。
ほんとお前ら『子供』だよな。
……ああ、ダメだ。
こうやって大人だとか子供だとか。自分勝手にレッテルを貼ってる、俺が一番『子供』なんだ。
「や~、それはやっぱ口では言えねえよ。見ねえと」
「なんだよ。教えろよ」
勝手に盛り上がる二人と一緒に、校舎を出る。いいかげん面倒くせえな、と思っていた俺は、ぼんやり見つめていた足元から視線を上げて。その人を見つけた。
「っ……!」
思わず立ち止まる俺に、友人たちが振り返ってる。
「藤崎?」
「なんだよ、どうした?」
周囲の女子がきゃあきゃあ言う声。
校門を出たところに、この辺じゃ見ない制服姿。少し緩めたネクタイから覗く焼けない肌と、整った横顔。
ガードレールに腰掛けている嶺華の高校生は、人待ち顔でうちの学校を見てる。
「…誰?知り合い?」
「どこの学校だよ。高校生?」
俺の視線を追ったんだろう。二人が興味を示したけど、俺は彼らの会話をほとんど聞いていなかった。
緩く流した前髪。目元の小さなほくろ。
慌てて駆け寄った俺は、目が合った途端に肩の力を抜いた。
……違う。千夏じゃない。
「アキさん」
その人に呼びかけると、彼は少し意外そうな顔をして。にやりと口元を歪め、後ろへ緩く流していた前髪を下ろした。
顔も体型も、千夏とまったく同じ容姿。千夏の双子のお兄さん、笠原千秋(カサハラチアキ)さん。
「なんだ。一目でわかっちゃった?」
「…目が合うまではわからなかったです」
「そう?久しぶり、武琉くん」
「お久しぶりです…」
アキさんと二人だけで会うなんて、初めてだ。周囲を見回すけど、他に誰もいないみたいだし。
「あの、どうしたんですか?ひょっとして兄貴に何か…」
アキさんは兄貴と付き合ってる。俺は二人のために家を出たと言っても、過言じゃないから。
でもアキさんは俺の言葉に首を振り、そうじゃないんだと呟いた。
「先生は僕が武琉くんに会いに来てること知らないよ。夜には話すけど…武琉くんの友達?」
視線が俺の背後に流れる。はっとして振り返った。
「こんにちは~」
「ちはッス~藤崎のダチで~す」
興味津々の表情で、勝手に挨拶をしてる二人に、思わず顔を顰めた。
「え~!藤崎くんの知り合いなの?!」
甲高い声が聞こえたかと思うと、遠巻きにアキさんを見ていた女子まで、わらわら近づいてくる。ヤバい、このままじゃ身動き取れなくなりそうだ。
焦る俺の横で、アキさんはゆっくり立ち上がると、にこっと笑って俺の肩に手を置いた。
「こんにちは。みんな武琉くんの友達?」
「あ、アタシはクラスメイトです!」
「私去年、同じ委員会で~」
「あのそれ、どこの制服ですか?」
「高校生ですよね」
矢継ぎ早な女子の言葉。おろおろする俺の腕を引っ張ったアキさんは、気にした様子もなく、何でもないって顔で笑ってる。
「武琉くん、話があるんだけど。少し時間あるかな?」
「大丈夫です」
「え~!お兄さん行っちゃうんですか?」
「そうなんだよ、ごめんね。…行くよ武琉くん」
「あ、はいっ」
ひらひら手を振って先に歩き出したアキさんを、追いかける。残念そうな学校のやつらに背を向けたアキさんは、途端に優しい笑顔を苦笑いに変えてしまった。
「…男子校のせいか、苦手なんだよね。ああいうの」
「すいません…」
「武琉くんが悪いんじゃないでしょ?用があって待ってたのは、僕の方なんだし」
角を曲がったアキさんは、やれやれ、とあからさまに疲れた顔をした。
その様子は全然千夏と違ってて、どっちかっていうと兄貴に似ている感じがする。
「あの、話ってなんですか?」