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「あったよ。でも、ふたつある」
『同じ大きさ?』
「うん。厚みも同じくらい」
『そっか…いいや両方預かる。取りに行ってもいいかな?今、下にいるんだけど』
「下ってマンションの?」
『うん』
「持っていこうか?」
『いや、いいって。帰ったとこだろ?オレが行くから。行ってもいい?』
「いいよ。じゃあ、待ってるね」
携帯を切ってから気付いた。なんでぼくが帰ったとこだって、わかったんだろ?
しばらく首を傾げてたら、今度はぼく自身の携帯が鳴り出した。それには出ず、頼まれた封筒を手にして玄関へ向かう。
ドアを開けると、ナツくんが申し訳なさそうな顔で、携帯を手にしていた。
「こんばんは。ごめんな、夜遅くに」
「いいよ。はい、これ…あってる?」
「ん~っと…」
封筒の中を覗き込み、書類を少し出して確かめたナツくんは、ほっとした様子で頷いた。
「うん、あってる。ありがと」
にこりと笑う顔は、アキと同じつくりだけど、アキより少しだけ幼いようにも見えた。ぼくはナツくんの腕を引っ張って、玄関の中へ入れてしまう。
「え?…なに」
「車待たせてるの?」
「うん。下に」
「じゃあ、あんまり時間はないね」
「…どうかした?」
首を傾げるナツくんのこと、じっと見つめて。ぼくは顔を綻ばせる。君たち双子はぼくの欲しいものばかりくれるよね。
「今日はありがとう。昨日の話、父さんたちに聞いたよ…ナツくんのことベタ褒めだった」
ぼくの言葉にナツくんは、そのことかと頷いてる。
「礼ならアキに言ってやって。あいつ初対面の人に会うの苦手なのに、今日はオレの代わりで、行ったことのないとこばっか回ってたんだ」
「それで緊張して寝ちゃったのかな」
「そうかも。…ねえ一琉ちゃん、オレね。アキがこんなに誰かのためだからって頑張るの、初めて見たよ」
すごくしみじみ呟くナツくんは、ぼくの顔を見てにこりと笑う。
「一琉ちゃんのこと助けたいって。手を貸してくれって言ったんだ…自分じゃきっとご両親に、上手く伝えられないからって」
「あの子は意外と人見知りだからね」
ぼくも最初は、慣れてもらえなくてさんざん噛みつかれたから。
「オレの言葉で、わかってもらえたかな」
「十分だよ。武琉から聞いてない?」
「ん?実は一琉ちゃんが帰って、そっこーで電話かかってきた」
ああ、それで。ぼくが帰ったばかりだって、わかったんだ。
照れて笑うナツくんを見てると到底、友達の顔を思い浮かべてるって感じじゃないんだけどな。
じいっとナツくんを見つめる。ナツくんはちょっと戸惑う顔になった。
「な、に?」
「ナツくんさあ。武琉のこと、嫌いじゃないんだよね?」
「…うん、そりゃ、まあ」
「いつまで焦らしてるつもり?まさかこのまま武琉の気持ち弄んで、逃げちゃうつもりだったら、怒るよ?」
ぼくの言葉にナツくんは、かあっと赤くなって下を向いてしまった。
ちょっと……この子こんなに純情なの?アキの弟なのに?
「…まさか、怖いとか思ってる?」
いつもあんなに余裕を振りまいてるナツくんなのに、言いたい言葉が見つからないのか、しばらくおろおろしていて。でも結局は顔を赤くしたまま、上目遣いにぼくを見た。
「…怖いだろ、普通」
「武琉が?するのが?痛いのが?」
「一琉ちゃんっ」
「なんだよ。こんなこと聞けるのぼくだけだろ?いいから答えなさい」
ぴしゃりと強く撥ね付けたら、ナツくんは仕方ないと諦めた顔で「全部だよ」と呟いた。
「もちろん具体的にその…タケルと付き合ったとして、タケルが望むことはわかってるし…応えてやりたいけどさ…」
耳まで赤くなってるよ。可愛い。
「想像出来ねえもん、オレ…それに大体、タケルがさ」
「合意もナシで何かされた?」
「う…いやまあ…その…ソレじゃなくて。あいつ、なんか時々…すげえ力でオレの腕掴むんだよ」
「ナツくん」
「痕がつくぐらいなんだぜ?…あの力で来られたら、何かが嫌だと思っても、絶対逃げられないし…正直、怖いと思ってる…」
最後の方は、恥ずかしさが極限だったのか、声が掠れてた。
若いなあ……どっちも男の子だねえ。
実は今日ぼく、武琉に色々と教えてきたんだよ。最後は恥ずかしがった武琉に逃げられちゃったけど。
「武琉も追い詰められてるんだ」
ぼくには珍しいくらい優しく言って、ナツくんの肩を撫でてあげた。
「一琉ちゃん…」
「どうしていいかわからなくて、不安なんだろ。君から何も明確な答えが出てこなくて、このまま自分は捨てられちゃうのか、それとも幸せにしてもらえるのか。わからないんだから」
「…うん。それは、悪いと思ってる」
「ちゃんと言えば大丈夫だよきっと。ナツくんの気持ちも、怖いと思ってることも。ちゃんと説明してやれば、武琉はちゃんと落ち着いて、向き合ってくれるから」