アンタがそう言ってくれるの、不安に苛まれながら待ってたんだよ。
もらった言葉を確かめるみたいに、唇を重ねる。おずおずと差し入れられた千夏の舌に、強く吸い付いた。
「んんっ…っ」
怯えて震える身体を抱きしめて、ベッドへ横たわる。自分の心臓がばくばくいってるのが聞こえて、息苦しいくらいだ。
アンタを好きになって良かった。
俺を千夏に会わせてくれた、すべての偶然に感謝してる。
何度も何度も口付けて、俺は千夏に覆いかぶさった。
強引に千夏の欲を引きずり出したいつかの夜とは違う。ここで無理矢理押し倒した時とも違う。
想いが重なって初めて、千夏の身体に触れる。肩から胸、腰へと手を滑らせて、千夏を見つめた。
「…千夏と、したい」
「タケル…」
「アンタを抱きたい。一緒に気持ち良くなりたい」
同意して欲しくて囁き続ける俺に、千夏は小さな声で「怖い」と、正直に呟いてくれる。
「千夏…」
「ごめん…でも、怖い…オレ、そんなことされるの初めてだし…その」
「うん」
「お前を、気持ち良くさせてやれる自信、ない…」
俺の感じている不安を、千夏も感じてるんだってことが、すごく嬉しい。
「…オレが下手だったら…嫌いに、ならない?…怖いよ、オレ…せっかくお前が好きだって、言えたのに」
「うん」
「してみたら…すげえイヤになるかも、しれねえ…じゃん」
千夏の声がどんどん小さくなっていく。
わかるよ、怖いって気持ち。未知の領域へ足を踏み出す不安。
でもそれが、俺の気持ちを見失うかもしれないってことなんだったら、怖がらなくていいんだ。
「千夏が好きだよ。それは、変わらない」
「タケル…」
「怖いってのは、わかるな。俺も同じだから。ちょっと怖い」
「…うん」
「でももう、どうにかなりそうなんだ。千夏が欲しいよ」
「あ…オレ…」
「優しくする…約束するから」
「…わかった」
「千夏って呼んでもいい?」
「うん…二人のときだけだったら、いい」
呼んで、って言いながら、千夏は何度かまばたきをして、ゆっくり息を吐いた。
「しても、いい?」
「タケル」
「アンタを抱いても、いい?」
色の白い手が伸びてくる。千夏は両手で俺の顔を包んで、今まで見たどんな笑顔よりきれいに微笑んでくれた。
「いいよ」
「千夏…」
「お前の好きに…」
して、って。
最後の言葉は掠れてしまって、俺の耳には届かなかった。
恥ずかしがる千夏のために、少しだけ部屋の照明を落とす。でも俺だって初めてだし、さすがに真っ暗な中で出来る自信はないから、うっすら明るい部屋。
震えの止まらない千夏を宥め、何度もキスを繰り返す。先に服を脱いでた俺は、ようやく千夏の着ているものを、全部脱がせたんだけど。
ちょっと固まってしてしまった。
「な…なん、だよ」
不安そうな千夏の声にはっとする。
「ご、ごめん。見惚れてた」
「っ!…ばかっ」
顔をいっそう赤くして、千夏は横を向いてしまった。
「ちょ、待って…全部見せて」
「やだっ…やだってば、タケルっ」
首を振る千夏の肩を抑え、俺の下で恥ずかしげに足をすり合わせる姿を、まじまじと凝視してしまう。
すげえ……こんな綺麗な人いるんだ。
貼り付くように締まった身体。細いし鍛えられてるのに、しなやかで柔らかいライン。肌が白くて日に焼けないのは知ってるけど、太腿とかびっくりするぐらい白い。
首とか腰とか足首とか、ところどころほんと細くて、浮いた鎖骨で出来るわずかな影が艶めかしいんだ。
やばい、目が離せない。
「も…いいだろ…そんな見んなよ」
「うん、ごめん」
「ごめんじゃなくて…タケルっ」
千夏が恥ずかしそうに首を振ってる。
どうしよう、これ。俺が触ってもいいんだよな?
何度も脳内でシュミレーションして、妄想で何度抱いたかわからない身体なのに、実物を目にしたら全部吹っ飛んでしまう。何からどうするか、真っ白だ。
「いつまで見てんだよっ」
泣きそうな声にようやく時間の経過を知って、俺は軽く頭を振ると、千夏の身体に顔を寄せた。
よく美味しそうなカラダとかってエロいジジイが言うけど、ほんとマジそう思う。食いつきたい。
手のひらで肌の感触を確かめ、やけに感動しながら、俺は千夏の胸に吸い付いた。
「ぁ…んっ!や、ぁっ、あっ」
「っ!先輩っ」
こ、声!声、可愛いっ!
前にもここは触ったし、あの時も千夏は喘ぎ声を上げたけど、焦りとか怯えとかが混ざってた時とは全然違う。
甘えてるみたいに鼻にかかった声。恥ずかしげに掠れてるのが、最高に可愛い。
もっと聞かせてもらいたくて、俺はそれを舌先で押しつぶし、もう片方を指でつまんだ。
「いっ…いたい、タケルっ…あ、あっ」