くぐもった声で言う千夏は、耳まで真っ赤になっていた。不安になって、千夏の身体をこっちへ向けさせる。
「千夏?」
ようやく泣き止んでくれてたのに、千夏はまた涙を浮かべてた。辛そうに眉を寄せて、唇噛んでる。
「あの…さ」
「…なんだよ」
「えっと…やめたい?」
口に出したら俺の方が辛くて、泣きたくなってきた。
でも俺は千夏とアキさんがどんなに仲いいか、知ってるから。アキさんがどんなに千夏を大事にしてるか知ってる。
二人の絆は双子だってこともあって、誰にも踏み入ることの出来ない、固いもの。それだけは俺も兄貴も、敵わない。
千夏がアキさんに知られたくなくて、アキさんの為にもうやめたいって言ったら、俺はどうしたらいいんだろう。
「…やめたいって言ったら、やめんのか」
不機嫌そうに尋ねられ、首を振った。
「イヤだ。イヤだよ、したい」
「だったら…」
「でもさ。俺は絶対、アキさんにだけは敵わないだろ。千夏がアキさんを大事に思ってるの、知ってる」
アキさんとすれ違ってしまったとき、千夏が可哀相なくらい傷ついて、見てるの辛いぐらい苦しんでたの、俺は間近で見てたんだから。
「千夏の一番大事なものを傷つけてもいいなんて、そんな風には思えないんだ」
「タケル…」
「千夏が欲しいよ。千夏を俺のものにしてしまいたい。でも俺は…」
最初からずっと。アンタと出会ったときから、変わらず思ってる。
俺はアンタを守りたいんだ。
千夏が傷ついたとき、慰めてそばにいるのは俺でありたい。その俺が千夏を傷つけるなんて、そんなの本末転倒だ。
どう言えば伝わるのか、悩む俺の腕を千夏が引き寄せた。
「バカじゃねえの」
「千夏?」
引き寄せられるまま顔を近づけると、少しだけ身を浮かせた千夏が、触れるだけのキスをしてくれる。ちゅって音のしたそれは、性的なものじゃなくて。まるで子供にするみたいな、軽やかさだった。
「何でそうなんの?…お前ってさ、時々そうやって、根拠もなく自信なくすよな」
「根拠はあるだろ…」
「それは根拠じゃなくて、妄想。お前がそう思っただけ。オレ一度でもお前よりアキが大事だって言った?アキにバレるのがイヤだからもうやめたいって、言ったか?」
「…言ってない」
「だろ?…オレはどんな顔してアキに会えばいいんだって言っただけじゃん。だってそんなの…普通、ビビるだろ」
千夏は溜め息をついて、俺の腕をいじいじと触ってる。
隣に横になって、クリームのついてないほうの手で、千夏の前髪をかき上げた。
「前のアキの時がそうだったじゃん…いつ何時頃どうなったか、とか。全部知られるんだぞ?見られるよりはマシかもだけど、そんなの…恥ずかしいじゃん…」
むうって唇を尖らせた千夏が、俺の胸に寄りかかってくる。そして、すごく嫌そうな顔で俺を見上げた。
「大体あいつ、こーいうネタでからかいだすと、しつけーんだもん」
「千夏…」
「タケルとどうだったとか、そのクリームは良かったかとか、絶対言われる。もうマジ勘弁して欲しい」
やだやだって、拗ねて俺の身体に纏わりついてくる。まるで小さな子供みたい。
「お前も絶対、なんか言われるから」
「いいよ、言われても。千夏はすごく可愛かったって正直に言うから」
「バカじゃねえの?!」
「なんで?ほんとのことだし。すごいきれいで、可愛い…好きだよ」
「タケル…」
「千夏が好きだ。やっぱ、やめたくない」
言いながら口付けた俺に手を回して、千夏が応えてくれる。そうっと離し、身体を起こして千夏の頬に触れる。
「いいよな?しても」
「…うん」
「じゃあ力抜いて、楽にしてて」
饒舌だった口が静かになる。やっぱ不安だったみたいで、震えてるけど。俺が足を開かせたら、千夏は恥ずかしそうに顔を背けて、でもおとなしく従ってくれた。
もう一度兄貴に貰ったクリームを指に塗りつけ、ぬるぬるにしてから千夏の後ろを探る。丸いラインを撫でて、すぼまった所に指を押し当てたら、それだけでも細い身体はびくっと震えてしまう。
「んっ…!や」
「千夏、痛い?」
「いたくは…ないけど…」
俺の枕を握り締め、はふはふと何度も息を吐き出してる。
落ち着け、と自分に言い聞かせた。
長く焦らされた分だけ、知識はある。千夏とこうなる日が来ることを願って、どうすればいいかは何度も調べた。
すぐに指を入れたりはせずに、何度か固く閉じた所を指でさする。歯の根が合わないほど震えてる千夏は、でも抵抗しようとしない。怖いって言ってたのに、俺を受け入れようと、協力してくれてるんだ。
きゅって胸が詰まった。
顔真っ赤だし、もう泣いてるし、可哀相なぐらい震えてる。でも、していいと言ってくれた。
俺だから。俺の為に。千夏は耐えてくれてるんだ。
「あ…あっ、やっ…ん」