「でも大事な弟。でしょ?」
「まあね。…いいんですか?店長。タケルまで泊めていただいて」
「構いませんよ。スペースだけはありますから、適当に転がしておきます」
「十分ですよ。良かったら何か、お手伝いさせておいて下さい」
「ははは、そうですね…ああ。だったらタケルに新しいレシピ叩き込んでおきます。辛くて酒のアテになるやつ」
俺が言うと、不機嫌だった藤崎先生の顔が、ぱあっと明るくなった。
俺もそうとうな辛党で、酒も好きな方だが、この人もけっこうイケる口だ。
「是非!そうだ今度、一杯やりに行きませんか。店長、美味しい店知ってそうだ」
「いいですね」
「ちょっと!僕だって嫉妬するんだよっ!わかってんの?!」
「じゃあ君も来ればいいじゃない」
「…僕が未成年だってことも、わかってんの?先生」
「大丈夫、君ならバレないバレない」
バレないって藤崎先生……アンタ教師でしょうが。
教師にあるまじきプランを楽しそうに語る藤崎先生と、それを咎める生徒のアキが繰り広げる、痴話喧嘩ギリギリの会話。
面白くて聞いていたら、ふいにアキが黙り込んで、自分の手首を押さえた。
「?…どうしたの、アキ」
「ヤバい…」
「何が」
「色んなとこ熱い…武琉くん、また暴走してる」
僅かに顔を赤らめたアキの言葉に、先生はさあっと青ざめ、勢いよく椅子から立ち上がった。
「ちょっとお邪魔します!」
「…どうぞ」
慌しく二階へ走っていく藤崎先生。
待ちなさい!とか、いい加減にしろ!とかいう声が聞こえてくる。
俺とアキは顔を見合わせた。
「…こんなドタバタ、今年の春までは考えられなかったよな」
ナツアキの周囲はいつだって騒がしかったが、しかし何もかも二人の手のひらの上という感じだった。
「でも、楽しいでしょ?」
にやりと笑うアキに、同じような笑みを返してやる。
まあ、確かにな。今のお前らは、かつての姿からは想像出来ないくらい、歳相応に悩んだり迷ったりしている。
その上で笑う顔は、本当に楽しそうだ。
「…一体ナツは、どんな顔して降りてくるのかねえ?」
「双子の僕にも想像つかないよ」
「見物だな」
「だね」
「それにしても明日、ナツを泊めてやる話は、断った方が良さそうだな」
「まあ…武琉くんと一緒はマズいかも」
若い二人の睦言など、夜な夜な聞かされたらたまったもんじゃない。
二階から誰かがブチのめされたような、どすんと大きな音が響く。やれやれと肩を竦め、俺とアキは二階へ向かって歩き出していた。
...the end.see you!
【了】